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食生活改善で認知症予防、久山町での疫学調査解析

認知症の予防に有効な食事パターンがある――。九州大が福岡県久山町で進める疫学調査「久山町研究」の解析から明らかになってきた。解析した九大久山町研究室学術研究員の小沢未央さん(30)は「運動や食生活を改善することが認知症の予防に重要」と指摘する。

 久山町は福岡市の東に隣接し、人口8339人(1日現在)の町だ。住民の年齢、職業構成は半世紀前から全国平均とほとんど変わらない。このため日本人の標準的なデータが得られるとして九大は同町に研究室を設置し、1961年から生活習慣病の疫学調査を積み重ねてきた。疫学調査とは、地域や特定の集団を対象に、病気の発生と要因の関連性を、統計的に明らかにすることだ。

 ●米控えめで発症抑制

 認知症に関する調査を始めたのは85年。同研究室が60歳以上の高齢者1193人を対象に17年間収集したデータを解析したところ、高齢者が生涯に認知症になる確率は約55%に上った。

 認知症の症状が出ていない60~80歳の計1006人の食事内容を17年間、追跡調査。そのうち計271人が認知症になり(うちアルツハイマー病144人、脳血管性認知症88人)、小沢さんは米、パン、麺、芋類、大豆、みそなどの摂取量と認知症の発症の関連を調べた。

 その結果、野菜▽牛乳・乳製品▽大豆・大豆製品――などの摂取量が多く、米を控えめにする食事パターンが認知症の発症を抑えていることが判明した。さらに、これらの食品摂取量との関係から認知症予防の影響度を数値化した=表。

 米は「減らすとよい」との結果になったが、米だけで調べると認知症の発症と関連はなかった。小沢さんは「一定の摂取カロリーの中で、米の摂取量が多くなると、野菜などおかずの量が減り、発症の危険度が上がるのではないか」と分析する。

 ●乳製品の効果確認

 また、「増やすとよい」となった牛乳・乳製品の成分と摂取量を検証したところ、牛乳・乳製品に含まれるカルシウムやマグネシウムに予防効果があることが分かった。またアルツハイマー病の原因物質の一つと考えられている酸化代謝物「ホモシステイン酸」を下げる作用のあるビタミンB12が豊富に含まれ、アルツハイマー病を含む認知症の発症率が下がったという。

人間ドック新基準の波紋、「健康」と「病気」の境目は?

日本人間ドック学会などが4月に発表した健康診断の新しい「基準範囲」の衝撃は大きかった。すぐに健診に適用されるわけではないが、従来より「健康」の範囲が広がり、喜ぶ人もいれば「今まで薬を飲み続けたのは何だったの?」と戸惑う向きも。何が起き、どう受けとめればいいのか。新旧の基準作りに関わった医師らや、こうした問題に詳しい識者に聞いた。3回に分けて紹介する。【高木昭午】

 ◇高血圧やコレステロール 現行基準は「厳し過ぎ」

 学会と健康保険組合連合会が共同で示したのは、健診の検査27項目の新基準範囲。特に注目されたのが血圧とコレステロールだ。何しろ高血圧、高コレステロールの患者は全国で推定7000万人以上おり、関連医療費は3兆円を超す。

 現在の高血圧の診断基準は「最高血圧140以上か最低血圧90以上」だが、新範囲では最高147、最低94までは「健康」になる。LDL(悪玉)コレステロールも今の診断基準は「140以上」が脂質異常症だが、新範囲では男性は178まで、女性は45~64歳なら183まで、65歳以上は190までが「健康」だ。

 病気と健康の境目はそんなに簡単に変わるのか。まず学会学術委員長の山門実・三井記念病院総合健診センター特任顧問に尋ねた。「年を取ればコレステロールも血圧も自然に上がるのに、今の基準は考慮していない。加齢や男女差を反映した基準が必要だ」

 山門さんは新範囲を作った理由をこう説明した。未公表だったが、血圧の男女・年齢別の数値=表=もある。高齢者になるほど範囲は広がり、70代後半なら最高血圧160も範囲内だ。医師間に以前からあった、高齢者の血圧を「年齢+90」まで正常と見る考えに近い。

 新範囲はこう求めた。2011年度に全国200施設の人間ドックを受診した約150万人から、検査項目ごとに▽がんなどの病歴がない▽喫煙なし▽他の検査項目で異常なし――などを満たす「超健康人」を1万~1万5000人選び、性・年代で分ける。極端な値の排除のため上位2・5%と下位2・5%の検査値を捨て、残った値を基準範囲と定める。つまり同性、同年代で元気な人の「人並みの範囲」ということだ。

 「基準範囲で検査結果が年齢相応か、などが分かる。健診を繰り返し、結果が範囲を外れかけたら手を打つ“先制医療”をやりたい」と山門さん。

 ただし血圧やコレステロールの基準値は従来「値が高いと将来、脳卒中や梗塞(こうそく)になる確率が高まる」との考え方で作られてきた。今回のように「今、健康な人」を調べても将来の発症率は分からない。現行基準を作った日本高血圧学会と日本動脈硬化学会はこの点を強く批判する。

 山門さんも批判を認め「新範囲を使えるのは5、6年後。範囲におさまる人たちを追跡調査し発症の少なさを確認した後だ」と話す。それでも「今回は問題提起だ。現行基準は厳し過ぎて現場に合わない。例えばコレステロールだと元気な高齢女性の半数弱がひっかかる。人間ドックを受けても(元気なうちの治療代がかさみ)生涯医療費が減らない可能性がある。基準を再考すべきだ」と訴えている。

脳機能 かむことで回復

軟らかいものを食べ続けると脳の機能が低下するが硬いものを食べればその機能は除々に回復することを、旭川医科大などの研究班がマウスの嗅覚の実験で実証した。動物の実験ではあるが、かむことと脳の機能との関係を示す一つの成果として注目される。研究班は脳の働きの中の一つ、嗅覚に注目した。嗅覚は、マウスもヒトも、脳内の「脳室下層」で作られる神経細胞が、脳内でにおいを最初に感知する「嗅球」に移動して働く。研究班は、よくかむ必要がある固形飼料だけを与え続けた「固形マウス」と、かむ必要がない粉末飼料だけを与え続けた「粉末マウス」の脳の内部や行動を比較した。
 研究班の一員で、旭医大の柏柳誠教授(感覚生理学)は、「咀嚼が嗅覚に影響することが明らかになった」と松田光悦教授(歯科口腔外科学)は「自分の歯でかむことが、脳機能を含めた健康に重要なことを示す結果だ」とそれぞれ歯ナス。
                    北海道新聞 2014.5.31

気づきにくい口腔がん

中高年以降に発症が増える口腔がんは、早期に治療すればほぼ治る。しかし口内炎と勘違いするなど、早期には気づかないことが多い。がんの中では、がん組織を肉眼で見ることができる唯一の種類でもあり、兆候や点検方法を知っておけば早期発見につながる。
 口腔がんは、進行すると口の中が腫れたりし、食べ物をかむ、飲み込む、呼吸する、会話するといったことが困難になる。顔も腫れ、形も崩れていく。早期に発見されにくいのは、ゆっくり腫れたりするので違和感を感じにくいためだ。痛みもないため、自覚症状が少ない。発見は一般的にかなり進行してからが多い。その時点で全身のあちこちに転移していることもある。虫歯の治療で歯科が見つけたケースも少なくないという。
 厚生労働省によると、2012年度のがん全体の発生数36万人のうち口腔がん関連は約7200人で2%程度だが、ここ数年の発生数は伸びている。発症が60代以降に多く、高齢化が進んでいるためだ。男女比は2対1で男性が多い。口腔がんの原因としては、たばこやアルコールが特に危険因子。たばこやお酒の摂取量が多い状態が長年続くと、がんを誘発する確立が高くなる。また、入れ歯や詰め物など、歯やあごの形状と合わないものが入っていると、刺激となってがんの誘発要因となる。

口腔がんの疑いのある兆候

 □2週間以上治らない口内炎がある
 □なかなか治らない傷がある
 □しこりや腫れがある
 □指先でさわると痛みや硬い部分がある
 □歯のぐらつきが続いている
 □口の中から出血がみられる
 □ほおや舌が動かしづらい
 □赤くただれた部分や白くなっている部分がある

歯周病 唾液で判定 短時間で無料健診

県歯科医師会(和田明人会長)は7月から、唾液を採取するだけで歯周病のリスクが簡単に判定できる企業向け無料健診を始める。30歳以上の約8割がかかっているといわれる歯周病の早期発見と治療につなげてもらうのが狙い。従来の歯周病健診と比べて短時間でできるため、歯科医師会は「仕事の合間に気軽に受けてほしい」と呼び掛けている。

 歯周病は細菌の感染によって引き起こされる炎症で、歯ぐきが腫れたり、症状が進行すると歯を支える骨が溶けて歯が抜けたりする原因にもなる。県によると、子どもの虫歯や成人の歯周病の割合はいずれも全国平均を上回っているという。

 健診では、無糖ガムを噛(か)んでもらって唾液を採取し、唾液中の血液や組織破壊産物の量を測定する。血液や組織破壊産物は歯周病と相関関係があり、測定された数値で歯周病の進行具合が分かるという。

 また、口の中の状態や生活習慣などに関する問診も行い、歯の健康度合いについても判定する。健診は約10分で終わり、測定結果が約1週間後に郵送される仕組みだ。

患者の医療情報、ネットで共有 道北地域、旭川の大規模5病院を核に

旭川赤十字病院など旭川市内の大規模5病院を核に、100を超える道北地域の中小規模医療機関をインターネットを介してつなぐ医療情報ネットワーク「たいせつ安心i(あい)医療ネットワーク」が、今年4月からスタートした。5病院が診療記録やコンピューター断層撮影装置(CT)をはじめとする画像情報などを提供することで、当該患者が他の医療機関にかかっても、診療経過を容易に知ることができるシステムだ。将来的には、道北全域のネットワーク化を目指している。

 同ネットは、旭川赤十字病院と地域医療機関が連携した「旭川クロスネット」を大幅に拡張したシステムで、ネットの中核となるのは旭川赤十字、旭川医大、市立旭川、旭川厚生の各病院と国立病院機構旭川医療センター。5病院は患者の同意を得た上で、診療記録と画像情報を提供する。さらに、富良野協会、留萌市立、深川市立の3病院は画像情報のみを登録する。

 一方、地域の医療機関は、患者の同意を得たうえでインターネット経由で情報を閲覧できる。5月28日現在、参加している地域医療機関は、旭川をはじめ稚内市、留萌市、留萌管内羽幌町、上川管内美瑛町など道北の病院28、診療所71、歯科医院12、処方箋薬局11、計122医療機関となっている。利用する際、第三者への情報漏えいを防ぐため外部からアクセスできない仕組み「仮想プライベートネットワーク(VPN)」を使っている。

 このシステムを使うと、患者は、例えばがんなど重い病気でかかりつけの診療所から大規模病院へ転院して治療を受け、再び診療所に通院することになっても、診療所の医師がそれまでの診療経過を踏まえた対応をとることができ、重複した検査を避けられるなどのメリットもある。

胃ろう外せる患者、増える? 再び口から食事、リハビリ促す 診療報酬、4月見直し

おなかに穴を開けて管から栄養や水を入れる胃ろうは、回復すれば外すことができる。口から食べられるようにするリハビリを促し、つけたままの患者を減らそうと、厚生労働省は4月に診療報酬を改めた。外す患者の少ない病院は収入が減るため、必要な人につけなくならないかという懸念もある。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会副理事長の植田耕一郎・日本大学歯学部教授によると、リハビリは自身の唾液(だえき)をのみ込むことからスタートし、一滴の水分、ゼリー、ペースト状の食べ物へと進む。ベッドの上部を約30度起こし、あごを引いた姿勢でする。あごが固定された状態でのみ込むと、食べ物が食道ではなく気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)が減る。息を止めてのみ込むとよいという。

 植田さんは「声かけなど様々な刺激を受け、患者の感覚がよみがえり、食べたいという意欲が高まる。胃ろうにして終わりではありません」と語る。

 口から再び食べる患者を増やそうと厚労省は、胃ろう手術の診療報酬を4割下げた。一方、胃ろうが本当に必要かを調べるのみ込み機能の検査や術後のリハビリへの加算を手厚くした。

 ■患者敬遠の動き懸念

 診療報酬改定の背景には、検査せずに胃ろうにしたり術後にリハビリをしなかったりする実態がある。

 2012年度の医療経済研究機構の調査によると、検査を受けずに胃ろうをつけた患者が23%いた。口から食べられる可能性がある患者のうち、24%がリハビリを受けていなかった。

 ただ、胃ろうの手術が年50件以上の医療機関は、術後1年内に回復して外せた患者が35%以上いるなど、一定の条件を満たさないと収入が大きく減ることになる。外す患者の割合を増やすため、必要な患者にも胃ろうを避ける動きがでないか不安の声が出ている。

 国際医療福祉大学病院(栃木県那須塩原市)の鈴木裕副院長は「脳卒中などは回復しやすいが、神経難病などの患者は胃ろうをやめることはできない。口からは好きな物を楽しむ程度に食べるが、水や薬は胃ろうからという患者も多い」と説明する。条件をクリアできる医療機関は少ないとみられ、外せる可能性の低い患者を敬遠するところが出てこないかと、鈴木さんは心配する。

 胃ろう以外の主な栄養補給法には、鼻から胃まで管を通す方法や、胸の中心静脈への点滴がある。この二つに比べ、胃ろうは患者の不快感が少ない。長い期間使いやすく、食べるリハビリもしやすい面がある。

 榊原白鳳病院(津市)の笠間睦・診療情報部長は、患者や家族と一緒に、胃ろうをつけるか決めている。「外せるほどの回復は無理でも、状態が安定すると判断すれば胃ろうを勧める。栄養補給法の長所短所をよく知って、選んでほしい」と話す。

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