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医師の働き方改革、そもそも医師は労働者なのか

2.なぜ労働法が必要なのか

 雇用契約を結ぶと、労働者には役務を提供する義務が発生する。平たくいうと、契約に記載された仕事をする義務が発生するということであり、病院の指示に従って外来の診察や手術、病棟での勤務などをする義務が発生するということだ。反対に、使用者には報酬の支払い義務が発生する。病院で言えば、雇用契約に従って医師に給料を支払う義務が発生するということだ。

 雇用契約も民間人と民間人の契約で、その内容が決まるのが原則だ。法律の世界では「契約自由の原則」と言う。つまり、合意していない義務を課されることはないが、当事者同士が合意さえすればその内容に則して双方に権利と義務が発生するということだ。自動車を買えば、購入者は代金を支払う義務が発生するし、ディーラーは自動車を引き渡す義務が発生するのと同じことである。

 ただ、法律の世界には原則と例外があり、雇用契約の場合はかなりの例外がある。先に述べた「契約自由の原則」を基礎としながらも、その自由に決められる範囲を限定している。最低賃金法という法律で定める最低賃金を下回る低い賃金での契約は認められないし、労働基準法の労働時間の上限規制も同様に「契約自由の原則」の例外で当事者同士が合意していても認められない。

 なぜ、当事者の自由な契約に法律が介入してくるかというと、労働者保護のためだ。一般に、使用者の方が労働者より立場が強いので、両者を対等な立場として自由に合意して契約内容を定めてよいことにすると、生活のために仕事を必要とする労働者は、不当に安い給料で雇われるかもしれないし、健康を害するような厳しい条件でも断れないかもしれない。そもそも交渉力の違いも大きい。

 仕事をして生活費を稼ぐということは、人の生活の基盤となる大事な活動なので働くことを止める自由はよほどの資産家でもない限り難しい。だから、労働者を保護するために当事者同士の自由に任せてしまうとどうしても労働者に不利な条件になりがちだ。当事者の自由に任せると、結果的に労働者の権利が保護されないので、当事者が合意したとしても、あまりにひどい内容は無効ですよ、ひどいことをしたら使用者には罰則も適用されますよということが労働基準法などに書いてあるのだ。これは、日本だけではなく世界的に同じような労働法が整備されている。過去の過重労働・奴隷労働・搾取などの苦い経験から学んだ歴史の上に我々は立っている。

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