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舌痛症の診断・対応

舌通症はいわゆる口腔内科的疾患で、ドライマウスに次いで、多い疾患である。広義には舌が痛いという症状があれば舌痛症ということになるが、近年、原因不明でいわゆる心因性のものを1次性とし、原因が明らかなものを2次性とすることが提唱され広く受け入れられつつある。2次性の原因として最も多いものが、カンジダ菌の増殖である。カンジダ菌の増殖による舌痛では、通常のスワブ検査によりカンジダ菌の検出されないことが多く、肉眼所見やカンジダ検査所見で1次性と誤って診断のされてしまうこともある。また、カンジダ菌の増殖がストレスにより誘導されることから、基本的には1次性の舌痛症であっても、カンジダ菌の増殖が症状を悪化させていることも少なくない。これらのことから、舌痛を訴えてきた患者には、治療的診断として、まず抗真菌剤によるカンジダ菌の除去を行い、改めて1次性か2次性かを再考する必要がある。明らかな2次性舌痛症の場合には、原因の除去により症状の改善を目指すことが鉄則であるが、1次性と診断された場合には、100%の治療というものがないために、症状の改善には複数の治療法の試みや併用などの工夫が必要である。1次性舌痛症の治療とした様々な方法が試みられてきたが、治療効果のエビデンスが示されているものに、薬物療法として、抗うつ剤、aリポ酸、カプサイシン製剤、漢方薬などの投与、心理療法として認知行動療法がある。抗うつ剤、特にSSRIやSNRIによる薬物療法と認知行動療法は、高いエビデンスレベルが実証されてきているが、他の治療法は有効性のエビデンスが否定している報告が多く、必ずしも信頼できる治療法とは言いがたい。抗うつ剤の処方は、薬物の選択から始まり、副作用に関する問題、薬物の中止について一定の知識や臨床経験が必要であり、認知行動療法もある程度熱練が必要であることから、日常に歯科臨床での対応には困難の伴うことも少なくない。そこで、姑息的ではあるが、舌痛の緩和に有効なものにスプリント療法がある。舌痛症患者の多くに食いしばりがみられることから、その症状の緩和に有効であるのみならず、とりあえずスプリントを装着しておくと痛みを感じないという患者が多い。このことは、痛みを感じる付近の触覚を刺激すると痛みが分散されるという心理学的理論(ゲートコントロール理論)によってある程度説明できるものと思われる。これらの治療や対処の前に、1次性舌痛症では、心理社会的な問題をかかえている患者が多いことと、痛みが第3者に理解されないということにフラストレーションを抱えた患者が多いことから、心身医学療法の基本である、支持的精神療法を行うべきであろう。支持的精神療法は「受容」「支持」「保証」からなっているものであるが、医療面接の基本的態度である「受容」「共感的態度」が基になっている。すなわち、1次舌痛症では、まず、患者の話をじっくり聞くことで症状の緩和をみる例の多いことも理解しておくべきだろう。

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