記事一覧

がん 舌を残したい:2 イレギュラーな治療法

舌がんが見つかった東京都の主婦(47)は2014年3月、受診した都内の大学病院で切除手術を勧められた。しかし、なんとか舌を切らずにがんを治療したい。セカンドオピニオンを受けられる病院をネット上で探すうち、舌がん患者のブログから、南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市)のサイトにたどり着いた。

 サイトには「動注化学放射線療法」という聞き慣れない言葉が載っていた。舌に通じる動脈から抗がん剤を送り込み、同時に放射線治療でがんをたたくという。

 この病院でセカンドオピニオンを聞いてみたい。大学病院の担当医は快く紹介状を書いてくれた。「今ではセカンドオピニオン、サードオピニオンもふつうの時代ですから」

 ただ、動注化学療法や陽子線治療について「あくまでイレギュラーな治療法」と言われた。現在の舌がんの標準治療は外科手術であることを改めて説明された。

 主婦は3月末、大学病院からもらった画像データを持って同センターを訪れた。診察に当たったのは放射線治療医の中村達也(なかむらたつや)・副センター長(42)。動注化学放射線療法についてこう説明した。

 「舌に血液を送っている舌動脈に抗がん剤を流し込むと、舌のがん細胞を集中的に攻撃することができます。並行してX線と陽子線を照射すると、がん細胞がどんどん死滅していきます」

 「舌の形が変わらないので話す機能が影響を受けない」「顔のバランスが崩れない」といった利点がある一方、「放射線を舌に当てるので、しばらく味覚がなくなる」「舌が硬くなったり、骨が溶けたりすることもある」といったリスクもあるという。

 主婦は思いきって聞いてみた。「先生、治る可能性は、どれほどあるのでしょうか」

 中村さんは答えた。

 「あなたの場合、肺などに遠隔転移がないので、舌を切らずに治せる見込みが十分にありますよ」

 この言葉を聞き、主婦は「ここで治療を受けよう」と決めた。

 4月8日、次女(16)の高校の入学式に出席、翌9日に入院した。入院の朝には、センターに近い郡山市の「日吉神社」にお参りし、治療の無事を祈った。

【岡山大】舌切除の患者へ 発音支援の新装置

岡山大歯学部と同大学院医歯薬学総合研究科は、がんや事故で舌を切除した患者の発音を支援する装置を新たに開発した。さらに、岡山大病院に「夢の会話プロジェクト外来」を新設。診察から装置の製作、リハビリまで一貫してサポートする態勢を整えた。

 舌の大部分を失うと「カ」「サ」「タ」「ラ」などの発音が不明瞭になる。装置を付けると改善し、聞き取りやすくなるという。同科の皆木省吾教授らが、入れ歯などの素材を使って開発。舌がんで舌の約4分の3を摘出した同科の小崎健一教授がテストし、改良を重ねて実用化した。

 従来品は上あごに装着し、短くなった舌を補助するだけだった。皆木教授らは下あごに取り付けることで、切除後わずかに残った舌の動きをとらえ、発音を助ける仕組みにした。食事の妨げにならないよう、簡単に取り外せるようにした。

 既に小崎教授と患者1人が利用し、3人目の装置も製作している。今後は工学部と連携し、音声をデジタル処理して発音をより明瞭にする装置の開発にも取り組むという。皆木教授は「基本構造は世界初と言っていい。ノウハウを広く公開し、症例を増やしていく」と話す。

過去ログ