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歯を支える骨、再生 悪化した歯周病の外科治療

歯を支える組織が壊れていく歯周病は、日本人の約7割がかかっているとされる。初期は痛みなどの自覚症状が少ないため、気付かないうちに進んでしまうこともある。傷んだ歯周組織を薬などによって再生させ、健康な状態に近づける治療法が広がりつつある。

 ■細胞増殖促す薬、注入

 歯周病に長年苦しんでいた兵庫県宝塚市の自営業の女性(77)は2月下旬、大阪大歯学部付属病院(大阪府吹田市)で定期的な診察を受けた。主治医の北村正博准教授から「安定した状態ですね」と告げられ、笑顔になった。

 歯周病は、細菌が塊になった歯垢(しこう)(プラーク)が歯と歯ぐきの間にたまり、炎症を起こすのが原因だ。歯を支える歯槽骨などの歯周組織が次第に傷み、歯が不安定になって抜けてしまうこともある。

 女性は約20年前から、疲れがたまると、歯ぐきの腫れや出血を起こし、痛みがひどかった。2005年から阪大で専用の器具を使って歯垢や歯石を取り除く治療を続けたが、右下の奥歯は歯周病の状態が進み、外科治療が必要とされた。

 06年3月、代表的な外科治療の「フラップ手術」の時に歯周組織の再生を促す薬を使う新しい治療の治験に参加した。フラップ手術では、局所麻酔で歯ぐきを切り、歯垢や傷んだ歯周組織を取り除く。組織は元に戻らないため、術後に歯ぐきが低くなる。治験では、手術時に細胞増殖などを促すたんぱく質「FGF2」を含んだ薬を注入する。

 08~10年に実施された治験データでみると、薬を使った208人は歯槽骨が約37%増加したのに対して、有効成分が含まれていないプラセボ(偽薬)を使った100人は約22%で、有効性が確認された。女性は治療の約9カ月後に歯槽骨の高さが30%増加。「痛みもなくなり、かんだ時にしっかり安定するようになった」と話す。

 現在は3カ月に1回通院し、歯磨きの状態の確認や歯垢が固まってできた歯石の除去などをする。北村准教授は「歯槽骨が再生し、歯周組織が長期的に安定したというメリットが大きい」と話す。薬は昨年9月、厚生労働省の承認を受け、歯周組織再生剤「リグロス」として治療に使える施設が広がりつつある。

 企業とともに開発を担当した同病院の村上伸也院長は「骨を『再生できる』とはっきり言える薬で、フラップ手術に効果を上乗せできる」と話す。

 ■移植・膜…手法次々に登場

 歯周病の約6割は正しい歯磨きと、歯石の除去でよくなるとされる。約3割は、治療が必要となる「軽度」で、専用の器具で歯石を取り、歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)汚れを取り除く。歯を削ってかみ合わせを調整することもある。こうした基本的な治療で健康な状態に戻せる。

 ただ、残る1割は、外科治療が必要で、フラップ手術のほか、歯槽骨の深さや壊れ方によっては、歯周組織を再生する治療の対象になる。

 歯周組織は、歯肉(歯ぐき)のほか、歯槽骨や歯の表面のセメント質、その間にある歯根膜からなる。歯はがっちりとくっついているわけではなく、歯根膜の中にある繊維の束がハンモックのような役割をしており、衝撃に耐えられる構造になっている。

 歯周病で歯周組織が崩れていくと、その構造が失われ、歯槽骨も崩れていく。フラップ手術で傷んだ歯周組織を取り除くと、回復が早い歯肉がスペースを埋め、他の組織の再構築を妨げてしまう。歯周組織を再生できれば、歯周病を再発しにくくできる。

 再生治療の一つ、「骨移植術」は患部周辺の骨などを移植し、歯槽骨を補う。近年、移植用の人工骨やウシなどの動物の骨も複数承認されている。08年に保険適用された「GTR法」は、膜を埋め込んで細胞が増えやすい空間を作り、組織を再生させる。特殊なたんぱく質を塗る「バイオ・リジェネレーション法」は、先進医療として大学病院などで07年から受けられる。そこに新たに再生剤を使う方法も加わっている。

 日本歯周病学会理事長の和泉雄一・東京医科歯科大教授は「再生治療の選択肢が増え、これまでの方法より大幅に改善することもある。今後、症状と治療法の効果的な組み合わせを調べる必要がある」と話す。

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