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歯細胞から肝臓再生、年度内臨床も

日本歯科大学の八重垣健教授など再生医療研究チームは、歯の細胞から肝臓を再生する実験に成功した。歯髄幹細胞と呼ばれるヒトの歯の細胞から再生した細胞を、急性肝不全を起こしたラットの肝臓に移植、肝臓を再生させた。早ければ年度内での臨床応用も可能という。自己の歯の細胞から再生臓器と置換するというiPS細胞などに続く、再生医療の実現につながる可能性がある。

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 体性幹細胞という幹細胞の一種である歯骨髄細胞を使った前臨床実験。すでに研究グループでは、ヒトの乳歯・永久歯は髄から得た歯髄細胞を継代培養することに成功しており、肝臓、すい臓細胞の分化も成し遂げている。今回はこれらの経緯を踏まえ、80~90%の肝臓を切除し急性肝不全を起こしたラット6匹に、ヒト歯髄から再生した肝臓様細胞を移植した。6匹はすべて生存し術後20日で肝臓は完全に再生。移植したラットの肝臓にはヒト肝臓マーカーが大量に出現し、ヒト肝臓が再生できたことも確かめた。

 また、実験中に単純ミスで肝臓以外に歯髄からの肝臓様細胞が飛んだところ、肺で肝臓ができた。この細胞が悪性腫瘍になる可能性が否定できたとしている。さらに、ラットに肝硬変を起こさせ、肝臓様細胞を肝臓に注入した試験で移植群と非移植とで血清を比較すると、移植群と正常ラットとがほぼ同じ値を示した。肝硬変が治癒したことになる。

 これらの結果から研究陣では、機能的にも形態的にも十分な肝臓再生に成功し、ヒト肝臓の再生医療の実現性を実証できたと総括。それだけでなく、ヒト歯髄由来の幹細胞から発生させたすい臓など肝臓以外の種々の再生器官がヒトの体内で正常に機能する可能性が確かめられたとしている。

 また今回の試験では、肝臓様細胞からの臓器の再生時に、旧臓器を細胞接着(スキャホールド)の足場として活用し、臓器再生時のカギとなる3次元立体構造の構築につなげた。これもまた、疾病臓器を自己の歯の細胞から短時間で再生臓器と置換する治療の実現への道を開いたといえそう。

 肝臓の臨床医学の研究機関の協力があれば、臨床への応用は年度内にもできるという。iPS細胞の活用とは別のアプローチによる再生医療として注目を集めそうだ。

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