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第31回 糖尿病と歯周病の因果関係

私の視点
総評
 慢性炎症は、2型糖尿病の病態における主要な機序の一つとされています。本研究は、1年間の介入によって炎症マーカーも低下し、糖尿病合併症リスクも低減することを示唆した点で、病態生理学的にも臨床的にも意義が大きいでしょう。QOLも評価している点も臨床的価値があるでしょう。

 ただし、歯周炎改善によるHbA1c低下への寄与率(R2=0.04)は統計学的に有意ではあっても微々たるものなので、むしろ多因子の統合的改善によって血糖コントロールが改善したことが推測されます。

エビデンス解体
 治療者に対する治療内容盲検化は事実上不可能なので、情報バイアスを完全に排除することはできません。この点は限界点として割り引いて解釈する必要があります。

 二次エンドポイントでは血糖コントロールと多くの因子との有意な関連性が算出されましたが、いずれも寄与率は低く、検定多重性制御もなされていないため、各因子のインパクトはかなり小さい印象です。

 本来、検定の多重性への対策を事前に設定していない場合は、二次エンドポイントは仮説を提唱するオマケです。多重性により統計学的有意差の偽陽性が増えます。この試験では多重性が調整されていないだけでなく、20項目以上が二次エンドポイントとして設定されていたので、二次エンドポイントの 1項目以上に有意差が偶然出てくる確率(有意水準をp=0.05とする)は60%以上となるため、仮説の探究にすぎないでしょう。

一般性
 糖尿病患者では歯周病リスクが高いことが、国内外で確認されています4)。今回の研究ではイギリスの一施設での介入であったため、対象者のバイアスが残存していて一般性に乏しい可能性があります。他施設での再現性の確認が必要でしょう。

臨床的意義
 歯周炎の治療により、HbA1cには1年後に2群間で0.6%有意な差が出ました。この差は、経口血糖降下薬1剤による低下度に匹敵するものです5)。長期にわたってこの効果が持続するなら、糖尿病患者の歯周炎合併リスク4)を勘案すると、合併症予防の点で多大な効果が期待できそうです。長期的な介入結果が待ち望まれます。

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