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骨に置き換わる人工骨開発 徳島大学病院歯科口腔外科 宮本洋二教授 

超高齢社会が進行する中、歯科領域では、歯周病や虫歯によって歯を失い、あごの骨が次第に痩せて、安定した入れ歯や歯科インプラント(人工歯根)治療のできない患者さんが増えています。このような場合、体の他の部位から自分の骨を移植する自家骨移植が行われてきました。しかし、自家骨を採取するには、人体の健康な部分にメスを入れ、骨を切り取る必要があり、高齢の患者さんへの負担は小さくありません。

 そういった問題の解消法として、人工骨(骨補填(ほてん)材)があります。従来、多く使用されてきた人工骨に「ハイドロキシアパタイト」という材料があります。ハイドロキシアパタイトは生体親和性が良い材料ですが、体の中でほとんど吸収されず長期間にわたって体内に残存し、時には異物となって細菌感染の原因となることもありました。

 そこで、私たちは、もっと人の骨の組成に近く、最終的に本物の骨と置き換わる人工骨を九州大学と開発してきました。その中で、人の骨の主成分である「炭酸アパタイト」を完全人工合成することに成功し、製品化できました。この材料は2018年2月より、歯科医療メーカー「ジーシー」から市販されています。

 炭酸アパタイトは優れた生体親和性を持ち、時間の経過とともに体内で吸収され、自分の骨と置き換わるだけでなく、従来の人工骨よりも骨の新生を促進することも分かっています。

 これまで国内では、歯科インプラントを植え込むための骨を造る手術に使用することが許された人工骨はありませんでした。私たちが開発した炭酸アパタイトは、日本で初めて歯科インプラントへの適用が認められました。炭酸アパタイトは完全人工合成ですから、ウイルスや狂牛病などの感染症のリスクもありません。

 この一連の研究、開発は国から評価を頂き、本年3月、内閣府の第1回日本オープンイノベーション大賞審査員特別賞を受賞することができました。現在は、さらに大きな骨欠損を自家骨移植なしに再生できるように改良を加えるとともに、整形外科分野など医科領域への適応拡大を計画しています。

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