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いつのまにかできて消える口腔内の血疱

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熊本市民病院皮膚科部長の木藤正人氏の元に、繰り返し生じる口腔内の血疱を心配した患者が訪れた。患者は、2日前に熱いコロッケを食べた後、痛みとともに、軟口蓋に何か舌に触れるものができたことに気付いた(写真)。

 鏡で、黒い水疱様病変を確認。自発痛はなかったが、舌や食べ物が触れるとわずかに痛んだ。患者によると、以前にも同様のエピソードが1~2回あったが、いずれも1~2日で血胞は破れ、1週間程度で治癒したという。血液検査や血液凝固能にも異常はない。木藤氏は、angina bullosa haemorrhagicaと診断した。

 angina bullosa haemorrhagicaは、血液異常や全身疾患とは無関係に、突然口腔内に出血性水疱(血疱)が生じる病態だ。木藤氏は、「決してまれではなく、国内では、1990年代から歯科・口腔外科領域で報告されてきたが、医科の領域ではあまり認識されていないようだ」と話す。見た目が悪性黒色腫と似ているため、知識のある患者はびっくりして、悪性腫瘍を疑いやすい。

 通常のいわゆる「口内炎」と異なり、好発部位は軟口蓋で、黒い血疱になるのが特徴だ。多くは、接触痛や違和感を伴い、発症して1~2日以内には血疱がつぶれる。その後、赤色斑点の混在を特徴とした痛みを伴うびらんを形成し、1~2週間で瘢痕を残さず治癒する。「基本的には経過観察で問題ないが、まれに、血疱が拡大して気道閉塞を起こしたとの報告もあるので、注意が必要だ」と木藤氏は話す。

 原因疾患は特にないが、通常、誘因はある。多くは、食事中や食後すぐ、口腔内に疼痛や灼熱感を覚え、その後、軟口蓋や頬粘膜、舌に血疱が出現する。「実際に我々が遭遇したケースでも、熱いものや硬いもの、ざらざらしたものを急いで食べた後の発症例が目立った。食事時の物理的刺激や温熱の刺激で起こることが多いようだ」と木藤氏。また、吸入ステロイド薬を使用している患者が多いとの報告もある。背景には、第1回で紹介したAchenbach(アヘンバッハ)症候群と同様、血管の脆弱性があると考えられており、中年以降の発症が多い。

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