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掃除機は「GLでは推奨されていない」

掃除機を使う方法はどうなのでしょうか。

 きちんとしたデータはまだ持っていないのですが、自験例の中で掃除機を使用した例が数例ありました。掃除機の場合は6、7割成功している感触です。腹部突き上げ法や背部叩打法の成功率はだいたい3、4割くらいと思われるので、個人的には陽圧(外から押す)より陰圧(掃除機や吸引器)の方が良さそうと考えています。

――腹部突き上げ法は亀背の方や肥満の方だと難しいケースもありそうですが、掃除機を使うリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。

 歯を折ってしまったり、掃除機のノズルが長いので喉の奥に上手く入らなかったりといったことがあります。あとは、咽頭の後部を突いてしまって、大きな血腫ができたという症例報告もあります。なので、やはりリスクはありますね。

――少なくとも、気管挿管を普段から行っている救急医にとっては妥当な方法だが、現時点で一般化は難しいということでしょうか。

 そうですね。自施設のドクターカーで、事故現場の家にあった掃除機を救急医が使って気道異物を解除できた例も経験しています。ただし、現時点で掃除機を使った吸引はガイドラインで推奨されている方法ではないので、病院や介護施設以外の一般の家庭のような場では最初の方法としては推奨できないと思います。ただ、老老介護の家庭なども増えているので、適切な応急処置の手順や方法の開発は必要と考えています。

窒息の応急処置、GLの扱いは

食事などによる窒息事故の応急処置として、腹部突き上げ(ハイムリック)法や背部叩打法などが一般に推奨されていますが、救命救急医の視点からはどの方法が良いのでしょうか。

 最も良く知られている指針である米国心臓協会(AHA)の「CPR & ECC Guidelines」では、腹部突き上げ法、背部叩打法、胸部突き上げ法を推奨しています。ただ、具体的に何回やってどういう順番で行うかは書かれていません。米国赤十字では「five and five」といって、背部叩打を5回やって気道閉塞が解除できなければ、腹部突き上げを5回、それぞれ繰り返す方法を推奨しています( conscious choking - American Red Cross )。AHAのガイドラインも5年ごとに改訂されているのですが、窒息の項目はかなり扱いが小さく、新しいエビデンスの追加がない状態が続いています。BLS(一次救命処置講習)コースでも扱われますが、やはり心肺蘇生がメインなので、窒息事故の対応法は最後に少し教えるという程度のようです。

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