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特養は「誤嚥性肺炎製造工場」だった◆Vol.21

「病気は、治さなきゃいけない」と思ってやってきたけど、いよいよ人生の最終章という段階になったら、治そうとすること自体、意味がない時期が来る。その際、医療はどうあるべきか……。僕自身が取り組むべき最終的な命題が明確になってきた。

――もっとも、ホームで仕事を始めた当時は、終末期を迎えるのにふさわしい場とは言えない状況だったという。
 まさに医療を押しつけていた。今はほとんど来ないけれど、12年前に僕がここに来た当初は、1日、3、4回は救急車が来る状況だった。ほとんどが誤嚥性肺炎の患者さんの搬送だった。「1日、1500kcal食べさせなければいけない」と職員が必死だった。それがノルマ。しかし、高齢になれば、そこまで食べる必要がない人も多いのに、無理やり食べさせていた。その結果、「誤嚥性肺炎製造工場」とも言える状況だった。

 ここに来た頃の僕の主な仕事は、誤嚥性肺炎を起こした入所者の入院先探し。肺炎を起こし、苦しがる入所者を放っておくわけにはいかなかった。でも僕が病院に電話をすると、「芦花ホームさん。さっきまで1床空いていたけれど……」「今、忙しくて手がいっぱい」って、体よく断られてしまった。今は違うけれど、当時は病院との関係は良くなかった。

 ある時、職員に言ったよ。「何だよ、お前たちね。もう食べたくないって言っているのに、口の中に無理やり、突っ込んで。『誤嚥性肺炎製造工場』の工員だよって。そんなばかなこと、やめろって」。

咀嚼の話≪味覚≫

「ひみこの歯がいーぜ」。
咀嚼による効果8つの頭文字をとった標語です。
今回はひみこの「み=味覚」についてお話したいと思います。

咀嚼をすることによりお口の中の味を感じる細胞「味蕾細胞」の
センサーがよく働くようになります。
また、唾液中のコルチゾールにより、更に「美味しい」と
感じるようになります。

味が識別される際には咀嚼(歯ごたえ)による機械受容性感覚、
味覚と聴覚による複合感覚、そして視覚と聴覚(咀嚼音)、
温度感覚などが総合されて感覚刺激が形成され、
大脳皮質の味覚野へ入力されます。
そして、脳の視床下部や大脳辺縁系から報酬系に伝達されて
快感物質の分泌が促され、快情動が見られます。
食べることの楽しみ、多幸感や幸福感に繋がると共に
全身の自立機能を安定させて、筋緊張を解消します。

快感物質の中には抗不安作用を持つものもあり、
嗜好性の高い甘味や脂肪分の高い食物を咀嚼することで
増加傾向がみられます。
また、膵液や胃液の分泌にも関与し、免疫機能の向上や
塩分摂取量の減少などの効果も確認されています。

甘味などがストレスの軽減や解消に繋がるのに対し、
苦味は大脳辺縁系から扁桃体または回避系に伝達されて、
不快情動、ストレス状態に陥るとみられます。
しかし「わずかな苦味」にはリラックス状態も認められるため
旬の味の苦味はリラックス作用があるとも言えます。

上記のような効果は十分な咀嚼により期待できるものです。
忙しいとついかっ込んでパパっと食事をしてしまいがちですが、
お食事はよく噛んで、味わうことを心がけましょう。

▼参考文献:日本補綴歯科学会「咬合・咀嚼が創る健康長寿」
https://k.d.combzmail.jp/t/sw0d/g03fmtt09sk70mkdfzv86

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