定年を迎えて自由な時間が増えると、お酒を飲む量が増えやすい。若かった頃はお酒に強かった人でも、加齢とともに酔いやすくなり、病気やケガのリスクも高まる。健康で長くお酒を楽しむためにも減酒を心がけたい。(米山裕之)
医学博士で筑波大健幸ライフスタイル開発研究センター・センター長の吉本尚さんによると、近年は若者の酒離れが進む一方、高齢者のアルコール依存症やその予備軍が増えているという。
キリンビール(東京)が昨年10月に成人の飲酒頻度を調査したところ、お酒を飲む頻度を「週に5~7回」と答えた男性は、40歳代が22・5%、50歳代が25・3%だったのに対し、60歳代は37・5%と10ポイント以上高かった。女性も50歳代が15・9%だったが、60歳代は19・5%と上がっていた。
特に現役時代に仕事一筋で働いてきた人は、定年退職すると日中に孤独を感じ、お酒に手を伸ばしやすいという。子どもが独立したり、配偶者と離別したりといった家庭環境の変化も酒量が増えるきっかけになりやすい。
吉本さんは、「多量の飲酒は生活習慣病リスクを高めるほか、脳の記憶をつかさどる組織に悪影響を与えるため認知症の発症を早める危険がある」と指摘する。深酔いして転倒し、ケガをするリスクも心配される。
では、飲酒量を減らすにはどうすればよいか。
吉本さんは、「自分がどのくらいのお酒を飲んでいるのか、現状を把握することが第一歩」と話す。お酒を飲んだ翌日、ノートやパソコンのエクセル表などに何のお酒をどの程度飲んだのかを記入する。1週間分を記入したら飲酒量の推移を振り返り、どのようなタイミングで飲酒量が増えたのかを分析する。
余裕があれば純アルコール量を計算し、その増減を折れ線グラフにするとわかりやすい。純アルコール量は、「摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0・8」で算出できる。飲酒量と頻度を「見える化」するだけで、節酒意識が働き減酒につながるという。
厚生労働省は2024年、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を定め、生活習慣病のリスクを高める飲酒量の目安を、純アルコール量に換算して「1日当たり男性40グラム以上、女性20グラム以上」と示した。吉本さんは「高齢者は体内の水分量が少なく、肝臓の働きも弱まっているため、目安の2分の1~3分の2程度の量にしてほしい」と話す。
純アルコール量を減らすには、お酒を飲まない休肝日を設けるか、設けられない場合は1日に飲む量を減らす。減らせない場合は、アルコール度数の低いお酒に変えたり、ノンアルコール飲料と交互に飲んだりと工夫する。最初の1杯や最後の締めをノンアルコールに変えるのも効果的という。
キリンビールの適正飲酒セミナーで講師を務める同社企画部の草野結子さんは、「高齢者ほど、自分の体と相談して自分に合った量を適正に飲むことが大事」と話す。
お酒を飲む際は厚労省のガイドラインを参考に、飲む量と時間を事前に決めておくとよい。最初の1杯をゆっくり30分くらいかけて飲むと、酔いが回ってくることもあり、結果的に少ない飲酒量で満足できる。また、飲酒の合間に水や炭酸水を飲むと、飲酒量を減らすことができるという。
草野さんは「ついつい飲み過ぎてしまったときは、次の日は休肝日にするなど、1週間単位でコントロールしてください。飲み方を工夫することで、健康的に長くお酒を楽しむことができます」と話す。