記事一覧

障害者の歯科治療を向上させたい 静岡の専門医が全国的な医療機関の連携を模索

障害があり、歯科治療を嫌がったり、怖がったりする患者に、いかにリラックスして治療を受けてもらうか。障害者歯科を専門とする歯科医師は鎮静剤を用いるなど、細心の注意を払って対応している。一方、こうした対応が可能な歯科医師は限られ、「歯科難民」になる人も。事態を打開しようと、専門医が医療機関の連携を模索し始めた。 (藤原啓嗣)

 6月初旬、知的障害のある男性が定期的な検診のため、よこすな歯科(静岡市清水区)を訪れた。当初は「嫌だ」と不安がっていたが、歯科衛生士が笑顔で診察台へ誘導。次第に落ち着きを見せると、小笠原正院長(67)は笑気ガスを吸引させる処置を始めた。ガスの効き具合を確認し、静脈から鎮静剤を注入。心拍や血圧などを見ながら歯石を取り、虫歯がないかを調べた。小笠原さんは「入れ歯を使えない知的障害者もいて、自身の歯を極力残す治療が大切」と話す。

 昨年は一般の患者に交じり障害者延べ1373人を治療し、そのうち440人に鎮静剤を用いた。口の中を触られることを嫌がったり、診察台に座ることを怖がったりする人もいる。小笠原さんは初診の患者を診る場合、知能の発達度合いを測って本人が理解してできることを見極め、保護者や入所施設の責任者と治療方針を決めていく。「治療の目的を理解すると自ら診察台に座って、鎮静剤を用いずに治療できる患者もいる。患者の人となりを理解することから始めている」

 愛知県蒲郡市出身の小笠原さんは子どものころ、股関節の病気のため、障害者と施設で過ごした。その経験をきっかけに、それぞれの障害者の特性に合った治療が必要だと考え、障害者歯科の専門医を志した。松本歯科大(長野県塩尻市)で教授を務めた後、地域の診療拠点をつくろうと2022年に開業した。

 現在は、日本障害者歯科学会の理事としても地域医療に携わる。国内では1980年代に身体拘束から鎮静剤を用いた治療への転換が始まった。今は専門医のいる歯科クリニックや地域の歯科医師が活動する口腔こうくう保健センターなどで笑気ガスや静脈から鎮静剤を導入する治療法が用いられている。大学病院は全身麻酔による治療を実施している。

 一方、鎮静剤を用いた治療には経験が必要で、人員や機器の確保、安全性の担保も欠かせない。専門性の高い医療機関のみが治療を担い、そこに患者が集中して予約が取りにくい地域もある。さらに、地方によっては十分な医療機関がない「歯科医師の偏在」も課題となっている。