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肺炎、自己判断せず相談を

日本人の死因でがん、心臓病についで多いのが肺炎だ。肺炎による死亡者の95%を65歳以上が占める。季節を問わず発生する肺炎(市中肺炎)や誤嚥(ごえん)性肺炎に加え、空気が乾燥する冬にはインフルエンザをきっかけに肺炎を起こす患者も増える。
肺炎は、細菌やウイルスなどが肺に入り込んで起こる。市中肺炎は普段の生活で感染する肺炎で、戦前は多くの命を奪う病気だったが、1940年代に抗菌薬のペニシリンが登場して治るようになった。相川さんは「当時は『高齢者』といっても50歳代だったが、現在は65歳以上が圧倒的に増えている。持病があるなどして抵抗力が低下しているため、悪化しやすい。また、ペニシリンが効かない原因菌も増えている」と話す。

 市中肺炎を起こす病原体には多くの種類があるが、最も多いのが肺炎球菌で約25%を占め、病原性も強い。また子どもが外遊びなどで菌を持ち帰ることも多いため、子どもと接する機会が多い場合は注意が必要だ。

 せきやたんが多く出て、高熱になるのが特徴的だ。これらは一般的に風邪(風邪症候群)の症状と考えられがちだが、相川さんは「風邪では鼻水、せきやのどの痛みはあるが、高熱は出ない。インフルエンザは高熱にはなるが、たんは少ない」と説明する。肺や心臓に持病がある高齢者では典型的な症状が起こらない場合も多い。救急外来に来る肺炎患者には、平日に適切な治療を受けないでいるうちに週末に悪化したケースが多いという。相川さんは「素人判断はせずに、かかりつけ医を持ち、気になる症状があったら何でも相談できる関係を築いてほしい」と助言する。

 最も有力な予防方法は肺炎球菌ワクチンの接種だ。肺炎球菌には90種類以上のタイプがあるが、国内で使えるワクチンは、肺炎球菌感染全体の8割に当たる23種類の感染が予防できる。現在、65歳から5歳刻みの年齢の人には定期接種の公費助成がある。効果は5年以上持続する。相川さんは「最近はペニシリンが効かない肺炎球菌も増えている。高齢者は人混みを避けたり、マスクをしたりという予防策に合わせて、ぜひワクチン接種を受けてほしい」と話す。

 市中肺炎にはこのほか、たんが少なく空ぜきが続く非定型肺炎もある。病原体や効果のある抗菌薬も違うため、医師の診療が必要だ。

 ◇インフルエンザからも進行

 ウイルス感染によってインフルエンザにかかっても、重症肺炎まで進行することはほとんどない。しかしインフルエンザウイルスによって肺の粘膜が傷つくと、細菌が侵入して2次感染が起こりやすい。こうしたケースで、かつて病原体として見つかったのが「インフルエンザ菌」という細菌だ。

 相川さんによると、インフルエンザウイルスは電子顕微鏡が開発されるまで発見できなかった。このため2次感染で見つかる細菌がインフルエンザの原因と考えられて、この名が付いた。しかし、今ではインフルエンザの病原体ではないことがわかっている。

 日本ではインフルエンザや風邪と診断された患者に、ウイルスに効果のない抗菌薬を処方するケースが多く、過剰投与が問題になっている。相川さんは「昔は細菌感染で最も怖いのが肺炎球菌などによる髄膜炎だった。そのため多くの医師は予防的に抗菌薬を処方していた。だが、今は医師がきちんと診断すれば、抗菌薬を使わなくても済む」と話す。ただし、これも画一的な対応は難しい。致命的になることは少ない風邪でも、糖尿病や気管支拡張症、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)などの持病がある患者では抵抗力が低下しているため、抗菌薬の処方が必要になる。

 一方、症状緩和に使われる市販薬の服用はあまり勧められない。「くしゃみやせき、たんは風邪のウイルスを体外に排除しようとする反応。発熱も病原体に対する体の防御反応だ。これらを抗アレルギー薬やせき止め、解熱薬で抑えてしまうと治りにくくなる。小さい子や高齢者のように体力の弱い人を除いては、使わない方がいい」という。

 ◇「誤嚥性」予防に口腔ケアが重要

 これらの肺炎と異なるのが、飲食物や胃から逆流した胃酸が細菌とともに誤って気管に入ってしまって起こる誤嚥性肺炎だ。脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞、パーキンソン病などを患うと、飲食物をのみ込む動作(嚥下)がうまくできなくなり、起こりやすい。「日本人の死因で多いがんや心臓病、脳卒中の経過で誤嚥性肺炎を起こすケースが多い」と相川さん。日本呼吸器学会によると、肺炎の70%以上が誤嚥に関係しているとされる。

 予防で重要なのは口腔(こうくう)ケアだ。歯ブラシやマウスウオッシュなどを使って口の中をきれいにすることは口の中の細菌を減らす効果がある。また、口の筋肉を動かすことで、食事量を増やして栄養状態を改善する効果もある。

 誤嚥は特に就寝中に起こりやすく、「むせる」などの症状がない場合も多い。相川さんは「高齢だと、夕食の後などすぐに横になりがちだが、避けた方がよい。食後2~3時間ほどは座ったままの姿勢を保った方がよい。横になる場合でも、頭の方が高くなるベッドを使い、水平に寝ないようにするとよい」と話す。