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口唇口蓋裂に新たな治療 耳の軟骨細胞を培養鼻に移植 高さ・ゆがみ、整える

生まれつき唇や上あごにすき間などがある「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」。耳の軟骨細胞を使って鼻の形を整える新たな治療法の開発が進んでいる。また、人工歯根を埋めて義歯を取り付けるインプラント治療に、今年4月から公的医療保険が使えるようになった。

 口唇口蓋裂の赤ちゃんが生まれる割合は、国内では約500人に1人といわれる。上唇に割れ目がある口唇裂、上あごにすき間が残る口蓋裂、両方の症状を伴う口唇口蓋裂に分かれる。

 治療は、あごの発達に応じて出生直後から成長期、成長終了まで段階を踏んで、唇や上あごのすき間を閉じ、鼻の形を整え、歯茎の欠けた部分に自身の骨盤骨などを移植する。骨格が固まる16~18歳ごろをめどに一連の治療は終わる。

 口唇口蓋裂で鼻の変形があった関東地方の会社員の男性(25)は、大学4年の夏、自分の耳の軟骨細胞で鼻の軟骨を再生治療する臨床研究に参加した。骨盤などから取った骨や軟骨を移植する従来の方法と比べ、体の負担が小さいという。

 耳の後ろから1センチ四方の軟骨を切り取り、軟骨細胞を1カ月ほど培養して約1千倍に増やした。特殊なコラーゲンなどを素材にした「土台」(長さ5センチ、幅0・6センチ)に軟骨細胞を入れ、「再生軟骨」をつくった。それを鼻筋に移植し、鼻の高さやゆがみなどを修正した。「痛みが少なくて、うれしかった」

 東京大学と共同で開発したIT企業「富士ソフト」(横浜市)によると、治療対象は17歳以上を想定。再生医療製品として国の承認を得るための臨床試験(治験)中で、来年度の承認取得を目指しているという。

 ■インプラントに公的保険を適用

 また、歯のない部分の治療は16~18歳以降になる。

 関東地方の保育士の女性(23)は一昨年、治療の仕上げとして、1本分の歯の欠けた部分にインプラントを埋める手術を受けた。見た目のよさからインプラントを希望した。当時、埋設手術に医療保険は使えず、費用は約40万円かかった。

 口唇口蓋裂の患者に対するインプラント埋設手術が保険適用になったのは今年4月。手術法や人工歯の種類などによってかかる費用は異なる。日本口腔(こうくう)外科学会の朝波惣一郎(あさなみそういちろう)監事によると、1本実施した場合の患者の支払いは、3割負担で10万円弱が標準的という。「生活の質を高めるもので、ぜいたくではない」と話す。関連学会は、対象となる患者は年間約1200人と見込んでいる。

 ■他科との連携、必須

 口唇口蓋裂の治療は、形成外科や口腔外科が中心となる。ただ、中耳炎を起こしやすく、かみ合わせの矯正や言語訓練なども必要になるため、耳鼻科医や歯科医、言語聴覚士、臨床心理士との連携が欠かせない。また、口唇裂は妊娠時の超音波検査でわかる場合が多く、生まれる前からの対応も求められる。