記事一覧

摂食障害治療、整備に遅れ 支援センター設置が難航 自治体負担がネックに

拒食症や過食症など摂食障害の治療充実を図るため、厚生労働省が昨年度中に実現させるはずだった全国5カ所の治療支援センター設置が難航している。国と折半で事業費を負担することに都道府県が難色を示しているためだ。ようやく静岡県と宮城県が名乗りを上げたが、残る3カ所の見通しは立っていない。治療拠点の整備は患者や家族の悲願。厚労省は「一カ所でも多く設置できるように理解を求めていきたい」としている。

 ▽死の危険も

 摂食障害は、心理的な要因で食事の取り方に異常が生じる病気。食事の量を極端に制限する拒食症と、発作的大食いを繰り返す過食症に大きく分けられる。若い女性に多いが、やせていることを礼賛する社会的風潮を背景に、児童や中高年の女性、男性の発症も増えている。特に拒食症は栄養失調などの合併症で7~10%が死亡し、自傷行為や自殺に走る人もいる。

 摂食障害の正確な患者数は不明だが、厚生省(当時)の研究班が1998年に実施した疫学調査では推計約2万3千人。80年からの20年間に約10倍に増加したとされる。また、2009~10年の厚労省研究班による調査では、女子中学生の100人に2人が摂食障害とみられている。

 適切な治療を受けないと死に至ることもある病気だが、医療体制は極めて貧弱だ。公的な専門治療機関がなく、専門医も不足。数少ない専門外来に患者が集中し、初診まで数カ月待ちというケースも珍しくない。

 ▽患者の期待

 現状を打開しようと13年、専門医の有志らが治療拠点整備を求める約2万4千人分の署名を国に提出し、今回の事業計画につながった。「患者さんには行き場がない。それだけに事業化が明らかになった時の喜びと期待は大きかった」と摂食障害の治療に取り組む鈴木真理(すずき・まり)・政策研究大学院大教授は振り返る。

 計画では、精神科や心療内科の外来があり、救急対応もできる既存の総合病院5カ所を治療支援センターに指定。入院治療が必要な急性期の患者を受け入れるほか、地域のクリニックからの相談に応じたり、患者・家族への支援、住民への啓発活動を担ったりする。

 また、支援センターで得た知見やデータを集約し、治療プログラムや指針を開発する全国基幹センターも1カ所設ける。

 3年間のモデル事業として昨年度スタート。基幹センターは国立精神・神経医療研究センター(東京)に置かれたが、支援センターの設置場所が決まらなかった。

 ▽ノウハウ習得

 ネックは1カ所当たり約600万円の運営費の半分を自治体が負担する仕組みだ。いくら病院が積極的でも、自治体で予算が確保できないと手は挙げられない。

 「地域の患者さんの状況を一番把握しているのは自治体。保健所などと連携して普及啓発にも頑張ってほしいが、なかなか理解が得られない」と厚労省精神・障害保健課の担当者は話す。

 そんな中、静岡県と宮城県が本年度の県予算に事業費を計上した。

 浜松医大病院での設置を予定する静岡県の担当者は「浜松医大はもともと摂食障害の治療に積極的。モデル事業で得たノウハウをほかの病院にも伝えてもらい、県全体の治療レベルをアップさせたい」と期待する。

 東北大病院を想定する宮城県の担当者は「被災地域で患者さんが増えているという話もあり、予算化に踏み切った」としながら「全国に数カ所なら、基本的には国が整備すべきだ」と注文も。