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eye 食べる幸せ、感謝の笑顔 リクエスト食で終末期ケア

「あした、何が食べたいですか」。終末期ケアに取り組む淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院(大阪市東淀川区)では金曜日の午後、管理栄養士の大谷幸子さん(65)が病室を回って笑顔で患者にこう問いかける。土曜日の夕食は「リクエスト食」で、患者一人一人が望むメニューを院内で調理して出している。

 黒川和子さん(92)は先月、転院してきて初のリクエスト食を口にした。前日、看護師に刺し身が食べられると聞くと「本当? うれしい」。昨年12月に胃がんが見つかった。それまでは、孫娘やひ孫らと回転ずしに行くのが楽しみだった。

 当日は調理師がマグロとタイの刺し身や茶わん蒸しなどを病室に届けた。まずタイを1切れ。「歯ごたえがあって、おいしい」。大好物のマグロに「大きいねえ」と笑みがこぼれた。30分ほどかけてすべてをたいらげると、目を閉じて手を合わせた。「生きて、おいしいものが食べられたことに感謝です」

 内田温久(はるひさ)さんは一昨年秋、胆管がんで余命1年と言われ、今年2月に転院してきた。その月、院内のパーティールームに経営する会社の仲間や同級生ら20人が集まった。すき焼きと寄せ鍋がテーブルに並び、内田さんも肉2切れと白菜を口にした。

 その日の夕食はリクエスト食で、海鮮ちらしずしを食べた。長女に少しずつ口に運んでもらい、「ほんまにおいしい。病院ですしとは幸せ者やなあ」と穏やかな笑顔になった。その8日後、内田さんは家族に見守られて静かに息を引き取った。63歳だった。

 家族との思い出が詰まっていたり、懐かしい母親の味だったり。池永昌之副院長は「食べることと生きることは密接に結びついている。リクエスト食に人生が反映されることもあり、心のケアにもなる」と語る。大谷さんは2009年に夫を肝臓がんで亡くした。入院した時は手遅れで、好きなものが食べられなかった。大谷さんは「たとえ少しでも、食べられるうちに望むものを食べてほしい。医師や調理師と相談しリクエストに可能な限り応えたい」と話している。