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飲めずに「残薬」、山積み 高齢者宅、年475億円分か

高齢者宅から薬が大量に見つかる事例が目立っている。「残薬」と呼ばれ、多種類を処方された場合など適切に服用できず、症状の悪化でさらに薬が増える悪循環もある。年400億円を超えるとの推計もあり、薬剤師が薬を整理し、医師に処方薬を減らすよう求める試みが広がる。

 大阪府忠岡町の女性(78)宅を訪れた薬剤師の井上龍介さん(39)は、台所のフックにかかった10袋以上のレジ袋を見つけた。「ちょっと見せて」。中は全部、薬だった。

 胃薬や血圧を下げる薬、血糖値を下げる薬、睡眠薬――。10年ほど前の日付の袋に入った軟膏(なんこう)もあり、冷蔵庫にインスリンの注射薬が入れっぱなしだった。錠剤は1千錠を超え、価格に換算すると14万円超にのぼった。

 井上さんは昨夏、女性を担当するケアマネジャー上(うえ)麻紀さん(37)の相談を受けた。上さんによると、女性は糖尿病や狭心症などで3病院に通い、

15種類の薬を処方されていた。適切に服用しなかったので糖尿病は改善せず、医師がさらに薬を増やし、残薬が増える悪循環に陥っていた。

 「高齢で認知能力が落ちている上、3人の主治医が処方する薬が多く、自己管理が難しかったのだろう」。井上さんはみる。

 残薬は使用期限前で、保存状態が良ければ使える。井上さんはそうした薬を選び、曜日別の袋に薬を入れる「服薬カレンダー」に入れ、台所の壁にかけた。約3カ月後、寝室から約25万円分の薬も見つかり、薬の種類を減らすため主治医の一人に相談し、ビタミン剤の処方を止めてもらった。

 在宅患者や医療関係者に薬の扱い方を教える一般社団法人「ライフハッピーウェル」(大阪府豊中市)の福井繁雄代表理事によると、1日3食分の薬を処方されながら食事が1日1食で薬がたまる高齢者や、複数の薬を処方され「何をどう飲めばいいか分からない」と90日分も残薬があった糖尿病患者などの事例が各地から報告されている。

 日本薬剤師会は2007年、薬剤師がケアを続ける在宅患者812人の残薬を調査。患者の4割超に「飲み残し」「飲み忘れ」があり、1人あたり1カ月で3220円分が服用されていなかった。金額ベースでは処方された薬全体の24%にあたり、厚労省がまとめた75歳以上の患者の薬剤費から推計すると、残薬の年総額は475億円になるという。

 慢性病の患者を診ている医師4215人が回答した日本医師会のアンケート(10年)でも、36%が「患者の飲み忘れや中断で症状が改善しなかったことがある」と答えた。

 医師で日本在宅薬学会の狭間研至理事長は「薬を飲んでいない患者に、飲んだことを前提に対応しているわけだから、治療自体が崩壊する。薬代も無駄になる」と話す。薬の処方が必要以上に膨らめば、社会の高齢化が進むなかで医療費の拡大も危惧されるという。

 残薬を減らすため厚生労働省は昨年、薬剤師が受け取る調剤報酬の規定を改訂した。「薬剤服用歴管理指導料」の条件の一つに、薬の飲み残しがないか調剤前に確かめることを盛り込んだ。

 ただ、店頭で薬剤師が口頭で尋ねるのが大半で、厚労省医療課は「家まで行って服薬を管理するなど、薬剤師がどれだけ在宅医療に踏み込むかが検討課題」と話す。

 各地では対策が始まっている。福岡市薬剤師会は「節薬バッグ運動」を進める。市内31薬局で12年、バッグ1600枚を患者に配って残薬の持ち込みを呼びかけたところ、約3カ月で患者252人が約80万円相当の残薬を持ってきた。薬剤師が整理し、安全性が確認された約70万円分の薬を使ってもらった。

 13年には参加薬局を約650薬局に拡大。小柳香織担当理事は「残薬は調べると想像以上。今後も飲み残しを持ち込んでもらい、残薬を減らしたい」と話す。