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やせ女子・考/上 摂取カロリー、終戦直後以下

現代人の食生活では、メタボリックシンドロームなど肥満が問題視されることが多いが、実は日本人の平均的なエネルギー摂取量は以前に比べ減っている。特に若い女性で顕著な傾向で、専門家から「他の国では見られない現象だ」と懸念の声が上がるほどだ。「飽食の国」といわれる日本で、若い世代の女性の食にいま何が起こっているのか。その背景を2回に分けて考える。

 ●夕食は野菜スープ

 「仕事が忙しいし、食べることにあまり興味が湧かないから、最低限の食事になってしまう。気が付けば夕方まで何も食べていなかったということもあります」。東京都中央区の佳織さん(30)=仮名=は話す。

 朝、出社すると職場でココア味のプロテイン(たんぱく質を多く含む栄養補助食品)を水に溶かして飲む。それが朝食代わりだ。「朝、何も食べないよりはいいと思って」

 ある日の3食はいずれも少量だ。朝食に水に溶いたプロテインとコーヒー1杯。昼食はサンドイッチとコーヒー。夕食は自宅で作り置きしていた野菜スープをスープ皿に1杯。3食を食べているものの、推定エネルギー摂取量(1日当たり)は、厚生労働省が定める一般的な30代女性の必要量2000キロカロリーの半分にも満たない。

 同居する夫とは仕事の勤務時間が合わず、自宅で一緒に食事を取ることは少ない。家で作る料理もサラダやスープなどの単品が多いという。身長は161センチ、体重は47キロ。肥満ややせ度合いを表すBMI値は18・1で、明らかなやせ傾向だ。

 ●20代の5人に1人

 厚労省がまとめた2013年の国民健康・栄養調査によると、BMI18・5未満の「やせ」に分類される割合を性別・年代別にみると、20代女性が21・5%と最も多く、次いで30代女性も17・6%に上る。女性全体の「やせ」割合は12・3%で、データがある1980年以降で最も高くなった。

 同調査は1995年以降に、世帯単位ではなく個人単位で調査結果をまとめるようになった。全体の平均エネルギー摂取量は減少傾向にあり、20代女性のエネルギー摂取量も同じ傾向で徐々に減少している。20代女性のBMI値で「やせ」の割合は、95年以降、2割以上で推移しており、「5人に1人が『やせ』」という状態は定着している。

 また、平均エネルギー摂取量をみると、20代女性は1628キロカロリー(13年)だった。厚労省によると、終戦からわずか半年後の1946年2月時点のデータとして残っている「都市部」の平均値は1696キロカロリーで、13年の20代女性の方が少ない状態だった。

 さらに、国連食糧農業機関(FAO)によると、北朝鮮国民への1日の平均エネルギー供給量は11年で約2100キロカロリーとされる。日本の若い女性が取り込むエネルギー量は、経済制裁下の北朝鮮の人々への供給量よりも少ないことになる。

 国立健康・栄養研究所の滝本秀美・栄養疫学研究部長によると、20代の女性は食べる量が少ないこともあって、ビタミンやミネラルなどのいわゆる微量栄養素の摂取量も少なめだという。例えばビタミンB群の一種である葉酸や、鉄などが不足している。葉酸は、妊娠して間もない女性で不足すると、胎児の先天性障害のリスクを高めることが分かっている。

 滝本さんは「普段食べる量が少ない人は、最低限のカロリーは確保していても、健康の維持や妊娠、出産のための栄養素が不足している可能性がある」と話す。

 同調査からは、若い女性の食事バランスが取れていない状況も浮かんでくる。13年には3食ともに、(1)穀類(2)魚介類・肉類・卵・大豆(大豆製品)(3)野菜――の3種類を組み合わせて食べる人の割合は、20代は24・6%、30代は23・8%で、女性全体の平均36・5%を大きく下回り、男女別の全年齢層でも最も低くなっている。

 冒頭の佳織さんは「健康には気を付けなきゃ、野菜をとらなきゃ、という意識はある。外食すれば出されたものはきちんと食べるし、粉末を水に溶かすグリーンスムージーを常備して、毎日飲むようにしている。でも、一汁三菜を作って食べるような時間や気力があるなら、それを別のものに使いたいと思う」と話す。

 ●世界的に珍しく

 日本栄養士会の迫和子専務理事は「他の先進国では肥満対策が課題となっているが、日本では若い世代を中心に女性のエネルギー摂取量が減り、肥満者の割合が減っている。世界的にこんな国はない」と指摘する。80年代から栄養指導などで生活習慣病対策に力を入れてきた成果ともいえるが、一方で必ずしも肥満解消と同一線上で結びつけられないほど、若い女性のやせ対策が緊急課題になっているという。

 迫さんは「ここまで若い女性のやせ問題が進展するとは思わなかった。働き盛りの男性は肥満解消がなお課題で、日本は肥満とやせが共存する社会といえる」と話す。