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【滋賀】医事雑感 摂食・嚥下障害 ご近所のお医者さん

◇最期まで「食べる喜び」を--堀泰祐さん(県立成人病センター緩和ケア科)

 滋賀在宅医療セミナーが先日、開催されました。高齢化社会に対応して、患者が病院ではなく、暮らしの場所で医療を受けられるように在宅医療の普及を目指す取り組みです。

 セミナーには、医師や看護師、薬剤師、理学療法士など多くの職種が集まり、熱い思いを感じました。講義やグループワークを通して、在宅医療の知識を高め、さまざまな職種の顔の見える交流を図ることが狙いでした。

 私はがん疼痛(とうつう)緩和の講義を担当したのですが、セミナーの中で摂食・嚥下(えんげ)障害に関する講義は新鮮で「目からうろこ」でした。

 まず、歯科の先生から、口腔(こうくう)ケアの重要性が示されました。口腔ケアは虫歯や歯周病を予防するだけでなく、咀嚼(そしゃく)や嚥下機能を保ち、肺炎の予防にもなります。次いで、摂食・嚥下や栄養学に関する講義がありました。老化が進むと、食欲の低下、歯の喪失、咀嚼力の低下、消化液の分泌低下などから、次第に低栄養状態になりやすくなります。栄養状態が悪化すると、筋力の低下によりさらに咀嚼・嚥下力が低下するという悪循環に陥ります。

 嚥下機能が障害されると、誤嚥(ごえん)しやすくなり、肺炎の危険性も高まります。高齢者の死亡原因の中で、肺炎はがんや心疾患とともに常に上位を占めています。

 高齢化や脳卒中など、いろいろな疾患で摂食・嚥下障害が生じるのは、ある程度やむを得ないものと考えられてきました。食べられなくなれば、すぐに胃ろうやチューブ栄養に頼ってしまうような、安易な対処が行われがちでした。

 摂食・嚥下障害に対しては、さまざまなアプローチがあります。まず、嚥下状態を詳しく観察し、内視鏡やレントゲンを用いて、嚥下機能を評価します。嚥下訓練にはさまざま方法があり、専門の言語聴覚士(ST)による指導が行われます。

 口腔ケアや日常的に行う嚥下体操、食べやすい食事形態にすることや、食べるときの体位や環境の工夫なども有効です。

 多くの職種が協力して、高齢者ができるだけ最期まで食べる喜びを失わないよう、支えてゆくことが大切です。