記事一覧

唾液の力、うまく使っていますか=三村善郎さん ご近所のお医者さん

唾液にはいろいろな成分があります。食物を飲み込みやすくするムチンをはじめ、デンプンを分解しやすくするアミラーゼ、細菌に抵抗するリゾチーム、細菌に抵抗し発がん物質の作用を弱めるラクトペルオキシダーゼ、亜鉛と結合して味覚の働きを敏感にするガスチン、カルシウムと結合して歯を強化させるスタテリン、鉄と結合して細菌の発育を抑制するラクトフェリン、口の中をなめらかにして乾燥を防ぐアルブミン、細菌に抵抗するIgA(免疫抗体)、皮膚、歯、口腔(こうくう)粘膜、胃腸、血液などの細胞の増殖を増進するEGF(表皮成長因子)、神経節や神経線維の成長促進するNGF(神経成長因子)などが含まれています。

 唾液は1日に1~1・5リットル分泌され、口腔粘膜の保護や、pHが急激に変動しないような緩衝液としての作用もあり、そのことによって虫歯を防いだり、口を潤し、口臭を予防するなど、健康な口腔環境に寄与しています。ただこの素晴らしい唾液の力も、いろいろな環境や生活、薬物などにより、うまく使えない要素も多く存在しています。

 まず口を開けて呼吸する口呼吸は、唾液を蒸発させ、口腔環境を乾燥に導きます。またがんの放射線治療なども唾液腺の細胞を破壊することがあります。さらに花粉症の薬や降圧剤なども、唾液の分泌抑制に働き、口腔乾燥症を誘発することになります。

 ここで唾液を出しやすい、健康に通じる環境が、どのように作られるか考えてみましょう。まず食事の際によくかんで食べることが大切です。回数を多くかむことは、唾液を活発に分泌し食物とよく混ざることによって消化を助け、発がん物質の働きを抑制することができます。さらに口を閉じて咀嚼(そしゃく)することによって、鼻呼吸を確実にし、免疫系を活性化することができます。

 口を閉じて鼻呼吸でよく咀嚼した食生活は、あるべき唾液の機能と免疫力を活性化することにつながります。本来体に備わった活力を生かす生活で、健康になっていきましょう。

毎日新聞社 2014年5月13日(火) 配信