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長崎大病院・歯科医師ら、福島で避難高齢者の嚥下ケア支援 被災地医療・介護職のスキルアップ援助

長崎大学病院(長崎市)の歯科医師らが、福島第1原発事故で多くの避難者が出ている福島県沿岸部で、高齢者の嚥下(えんげ)ケアを支援している。避難生活を送る高齢者らは、口の細菌が肺に入って発症する誤嚥(ごえん)性肺炎のリスクが高まり、口腔(こうくう)ケアが重要になっているためで、同病院の専門家が被災地の医療・介護職のスキルアップを助けている。【樋口岳大】

 支援に取り組んでいるのは、同病院の嚥下ケアの専門機関「口腔ケア摂食嚥下リハビリテーションセンター」の歯科医師、小山善哉さん(51)ら。福島県の相双地域(2市7町3村)の保健福祉事務所と協力、現地の医療・介護職ら約150人を対象に9月から研修会を開催。嚥下のメカニズムやリハビリ、食事のサポートなどを解説している。また、来年3月までに嚥下ケアについて分かりやすく解説したハンドブックを作成する。

 同病院の歯科チームは昨年4~5月、歯科医師らが南相馬市などを訪れ、高齢者や在宅療養者の治療や口腔ケアをした。放射線被害を恐れて子供がいる働き手の世代が街を離れ、自力での移動が難しい人が取り残され、医療・介護サービスが途絶えるという厳しい状況だったという。医院を津波で流され、あり合わせの機材で避難所で診療している歯科医師もいた。

 現在は、地元の歯科衛生士らが仮設住宅などを巡回しているが、高齢や病気で食べ物がうまく飲み込めない嚥下障害の訴えは多い。阪神大震災では震災関連死で最も多かったのは誤嚥性肺炎だったと言われており、嚥下ケアの知識や技術の普及が課題となっている。今年3月、現地の保健福祉事務所から要請があり、支援を検討。今年度の国立大学協会の「震災復興・日本再生支援事業」に採択された。

 長崎大歯学部の林善彦・学部長は「大きな事業ではないかもしれないが、少しでもお役に立ちたい」。小山さんは「現地では医療・介護職が一生懸命頑張っている。私たちの知識や技術が助けになれば」と話した。
毎日新聞社 11月3日(土)