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患者の生活の質上げる口腔ケア 歯科医の協力重要

がん治療が引き起こす口内炎などの口腔内トラブルは、食事ができなくなるなど患者の生活に影響を与える。こうした症状を予防、緩和するため、口腔ケアにがん専門医と歯科医が協力する動きが広がっている。道内では北海道歯科医師会と道内のがんの治療機関が9月、連携協定を締結。がん患者の口腔ケアを行う地域の歯科医を増やし、患者の生活環境向上を目指す。
 がん治療による口腔内への副作用は以前から指摘されていた。点滴や飲み薬で投与される抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与える。細胞活動が活発な口腔内は影響が出やすく、口の中の乾燥、口の粘膜の細菌感染、口腔粘膜炎などを起こす。放射線治療でも、粘膜の炎症などを起こす。この結果、痛みで話すことや食事ができなくなったり、がん治療を中断しなくてはならなくなることもある。栄養補給を点滴に頼ることになると、入院が長引き、当然費用もかさむ。だが、歯科によるがん患者の口腔ケアは、積極的には行われていなかった。以前は手術前後のがん患者に対する口腔ケアが保険診療に認められていなかったことや、がん専門医との連携難によるがん治療情報の不足、歯科治療を行った場合のトラブルの心配などがあるためだ。「口腔ケアや歯科治療を歯科から拒否されるケースもあった」(がん専門医)のが実態だ。そうした状態への反省に加え、近年口腔ケアを行うことでその後のがん治療の経過が良好に進むという研究結果も出てきた。これを受け、国立がん研究センターは2010年から、関東圏の歯科医と連携し、がん手術を受ける患者の口腔内チェックを行っている。
 また、厚生労働省は4月、診療報酬を改定。がん患者に対する口腔ケアが保険診療として加算できるようになり、歯科が積極的に関わる下地を整えた。道内の先駆けとしては、北海道がんセンターが昨年4月から週に1回(現在は週に2回)、北大病院の歯科医らが入院患者の口腔ケアを開始した。昨年度1年間で292人を診療。このうち、退院患者ら69人を地域で協力してくれる歯科医院に紹介した。同センターで診療を受けている岩見沢市の主婦(64)は、今年3月に抗がん剤治療を開始。その影響で歯茎が腫れ、手術した。手術前に、歯科医に歯石の除去などをしてもらった。術後の点検のため口腔ケアを継続しており、「診てもらえて安心です」と笑顔を見せる。これとは別に、北海道歯科医師会は9月、がん診療連携拠点病院など21施設でつくる北海道がん診療連携協議会とがん患者の口腔ケアで連携協定を締結。年内にも歯科医師向けの講習会を開き、放射線治療による口腔内への影響などを学んでもらい、受講者を協力歯科医として認定する。道内のがん診療連携拠点病院が、がん手術前の患者や、放射線治療を受けている患者らを地域の認定歯科医に紹介する仕組みを作る。
 道がんセンターで診療にあたる北大口腔診断内科の秦浩信医師は「口腔ケアがしっかりできれば、患者はがん治療に専念できる。自宅から通院しながら治療を継続する例が増える中、退院後のケアをしてくれる地域の歯科医師の協力が不可欠」と語る。同協議会の西尾正道会長(北海道がんセンター院長)は「食べることは、人の原点。これまでおろそかにされてきた分野を補うことで、がん患者の生活がより良いものになるようにしたい」と話している・
                北海道新聞 2012.10.10