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安易な考えは禁物 インプラントでトラブル 関係学会は対策に着手 「医療新世紀」

歯を失ったあごの骨に穴を開けてチタン製の人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を取り付けるインプラント治療でトラブルが相次いでいる。中には神経まひなどの重い症状を起こした事例もあり、関係学会は実態を調べたり、治療内容を記録して患者が携行する手帳を試作したりと対策に着手した。専門家は「インプラント治療は外科手術。安易に考えないで」と呼び掛けている。

 ▽教育ないまま

 インプラント治療は欧州で開発され、日本でも1970年代~80年代から広がった。隣接する健康な歯を削って人工の歯を挟むブリッジとは違い、ほかの歯に負担をかけずに済む。入れ歯に比べて強く物をかめるし、見た目がきれいなのも利点だ。費用は1本当たり30万~40万円とされる。

 だが、普及の仕方には問題があった。大学などで統一的な教育がないままに、メーカーが開業医を直接指導する形で広まった。そんな経緯が「治療水準に差がある可能性」(国民生活センター)を生んだとされ、同センターは昨年12月、2006年度から約5年間に腫れや痛みが残るなどのトラブルが343件寄せられたと発表した。

 主に大学病院の口腔(こうくう)外科医らで構成する日本顎顔面インプラント学会の調査では、09~11年に74カ所の学会認定施設で計421件、重いトラブルを抱えた患者の治療が行われた。神経損傷によるまひが約38%を占め、鼻の横にある上顎洞と呼ばれる空洞へのインプラントの侵入、上顎洞の炎症が続いた。その大半は開業医から受けた治療に起因するものだという。

 ▽治療指針

 同学会は調査結果を踏まえ、異常を感じた患者が回復可能性のある早期に大学病院などでセカンドオピニオンを求め、トラブルの治療を始められるよう患者が携行するための手帳を試作、普及を目指すことにした。

 国内で使われているインプラントは数十種類あり、使用する器具も異なる。手帳にはインプラントの位置、大きさ、メーカー名など、トラブル対処に必要な情報の記入欄を設け、インプラント治療を行った歯科医に書き込んでもらう。骨粗しょう症薬などの服用者はインプラント治療で重大な合併症を起こす恐れがあるため、服用薬の点検欄も設けて注意を促す。

 インプラント治療に携わる開業医らが最も多く加入する日本口腔インプラント学会は、治療前に確認すべき既往症や投薬状況などのチェックリスト案を公表した。治療指針もまとめ、8月末をめどに全会員に配布する。

 日本歯科医学会も3月、インプラント治療の手術環境や事前の検査、患者への説明内容、事後のメンテナンスなどについて全国調査した。結果を踏まえて治療指針づくりに乗り出す考えだ。口腔インプラント学会などと連携し、治療内容を記入する患者用カードの作成も検討している。

 ▽賢い患者に

 そもそもインプラント治療は骨に穴をあける外科手術。例えば下顎なら骨の中に神経や血管が通っており、リスクが付き物だ。顎顔面インプラント学会理事長の瀬戸☆一(せと・かんいち)・総合南東北病院口腔がん治療センター長は「入れ歯と同じ感覚では困る」と訴える。

 口腔インプラント学会理事長の渡辺文彦(わたなべ・ふみひこ)・日本歯科大教授は「自ら情報収集し、きちんとした技術を持つ歯科医を見極める賢い患者になってほしい」と話す。歯科医を選ぶ際には、各学会が独自の基準で認定する専門医の情報も参考になる。

 「インプラントは画期的な機能回復医学。高齢化社会で長く健康に暮らすために今後、重要な役割を果たす」(瀬戸さん)。専門家らは「素晴らしい治療法」と口をそろえ、悪いイメージの定着を懸念している。