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唾液の抗菌物質 化膿や炎症 力合わせ防ぐ

だれでも、けがをしたときに反射的に傷口をなめた経験があるでしょう。「口の中の細菌が傷口に入り、かえって汚いのでは」と思われるかもしれません。しかし、毎日きちんと歯磨きなどのお口の手入れをしているなら、傷口をなめてもほとんど心配いりません。
 口の中の菌は口の外の環境では生きていけないものがほとんどで、たとえ傷口に入っても免疫の力で排除されてしまうからです。傷口をなめるのは、自然の理にかなった行動のようです。犬や猫などの動物もけがをしたら、ひたすらなめていますね。
 唾液の中には、出血を止める物質に加え、リゾチーム、免疫グロブリン、ラクトフェリン、ヒスタチン、ペルオキシダーゼなどの抗菌物質が含まれています。これらは協力して口の中の微生物の活動を抑えたり、殺菌する働きをしています。中でもリゾチームは、ペニシリンの発見で有名な細菌学者フレミングが見いだした物質で、唾液以外にも卵の卵白部分や動物の分泌液、例えば涙液、鼻汁、膣の分泌液、乳汁などに含まれて居ます。
 鳥類にとって大切な卵や、私たち人間にとって重要な組織(口、目、膣)、それに赤ん坊を、微生物の感染から守るための天然の殺菌物質です。殺菌作用に加え、局所の炎症を抑える作用も知られており、現在では化学的に合成されて風邪薬などに使われています。
 口の中の傷がめったに化膿せず、皮膚のけがに比べて早く治るのは、こうした唾液中の抗菌物質の働きによるものですが、もうひとつ唾液中のFGF(上皮成長因子)という成分が関係しています。これについては次回にお話ししましょう。(北大病院歯科診療センター講師)
                  H23.6.29 北海道新聞