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お世話になった恩返し 夫婦で歯科治療に全力

【宮城県南三陸町の歯科医師Oさん(58)】

 住宅兼診療所の2階にある時計は午後3時20分、3階はその4分後で止まっていた。津波はすごい速さでせり上がった。

 地震が来て、患者さんとスタッフを「家に帰るな、避難所へ行け」と急いで送り出した。火の元の確認をして遅れたけど、高台の神社に逃げて助かった。故郷の南三陸町歌津地区で開業して26年。着ていた白衣のほかは、すべて津波に持っていかれた。

 歯科医師会から提供されたバスを自分で運転して毎日避難所を回った。趣味で大型免許を取っていたのが役に立ったね。入れ歯をなくしたお年寄りが多かったけど、材料も道具もない。応急処置しかできないのが、つらかった。3カ月たってやっと作れる状態になって、それでもまだできたのは16人分だけだな。

 6月になって気温が上がり、バスでの巡回治療も限界に近づいてきたので、空いていたショールームを借りて10日から臨時の診療所を開いた。泥だらけの旧診療所から、流されずに残った器具を拾い集めて一つ一つ洗った。診療用の椅子は廃業した知人からもらった。

 妻も歯科医。2人で時間いっぱい働いている。もう1台椅子があれば、もっと患者さんを診られる。自分が診療所にかかりきりなので、避難所で口腔(こうくう)ケアの指導ができる歯科衛生士を県から派遣してもらえれば助かる。

 地区には私たちしか歯科医がいない。本当は別の町に移れば楽だけど、今までさんざん町の人にお世話になったんだから。夫婦で恩返しですよ。
2011年6月17日 提供:共同通信社