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虫歯や真菌が原因の場合も 蓄のう症

蓄のう症の多くは、鼻風邪やアレルギー性鼻炎から起こる。しかし、東京都府中市の地方公務員、大下敏隆さん(48)の場合は違った。大下さんは昨年1月下旬、左の上の親知らずを抜歯。その際、左の上顎洞(じょうがくどう)(ほおの裏側の空洞)と口の中をつなぐ穴ができた。穴は10日間ほどでふさがったが、数日後、黄緑色の鼻汁が出た。さらに数週間後、抜歯部分に激しい痛みがあり、次いで鼻内に「どぶのような臭気」を感じて総合病院の口腔(こうくう)外科を受診すると、「歯性上顎洞炎」と診断された。虫歯や歯根の炎症が空洞の粘膜に広がって起こる蓄のう症だ。

 歯性上顎洞炎のように、顔の片側だけで起こる蓄のう症には、カビの一種である真菌の感染が原因になっていたり、悪性腫瘍(上顎洞がん)が見つかるケースもある。真菌が空洞(副鼻腔(びくう))内で異常増殖した場合には手術が必要だが、鼻の中から内視鏡を使って除去することが可能だ。また、神奈川歯科大の八尾和雄教授(耳鼻咽喉(いんこう)科学)は上顎洞がんについて、「患部を切除する手術と少量の放射線照射、抗がん剤投与を組み合わせた北里方式という治療法で、患者さんの7~8割は治る」と指摘する。

 特殊な蓄のう症としては他に、飛行機に搭乗中、機内の圧力の変化に空洞の内圧の変化が対応できずに起こる「航空性副鼻腔炎」などがある。蓄のう症による炎症が、目に波及する場合もある。特に、両目の間にある空洞(篩骨洞(しこつどう))と、眼球の入ったくぼみ(眼窩(がんか))を隔てる壁は紙のように薄く、炎症が広がりやすい。物が二重に見えたり、目が腫れたりしたら、一刻も早い受診が必要だ。

 一般的に、感覚器官の神経は繊細で再生しにくいとされる。食べ物の風味やにおいの異常も、放置すると嗅覚の喪失につながりかねない。聖路加国際病院(東京都中央区)の柳清・耳鼻咽喉科部長は、これまでの経験から「においがしなくなっても、早期の治療で8~9割の人は元に戻るが、5年以上過ぎてしまうと難しい」と話す.
2011年3月11日 提供:毎日新聞社