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私大歯学部人気回復なるか

増える口腔ケア需要…若い歯科医、飛躍の機会

 大学受験シーズンも終盤に入ったが、2010年度に17校のうち11校で定員割れした私立歯科大・歯学部は、学費引き下げや受験機会を増やすなどして定員確保に努めている。

 11年度の歯学部入学定員は国公立と私立を合わせて2482人。そのうち、私立は1825人と約7割を占める。

 私立の入学志願者数は07年度までほぼ1万人を超えていた。だが、10年度には半分の4914人まで落ち込んだ。志願者減の背景については「『コンビニよりも多い』などと歯科医師過剰のイメージが広まったうえ、不況で、学費が高い私立が敬遠された」(安井利一・日本私立歯科大学協会副会長)との見方がある。

 確かに歯科医師数は過去30年間で約5万人から約10万人に倍増した。歯科の診療報酬は長く据え置かれてきた上に、歯磨きの徹底や少子化で虫歯の患者も減っている。歯科医院の経営環境が以前よりも厳しくなっているのは間違いない。

 とはいえ、開業歯科医の平均年収は、まだ1400万円前後と高い水準にある。私立は学費が高いものの、歯科医師に定年はない。日本私立歯科大学協会によると、歯学部新卒者の就職率はほぼ100%で、求人倍率が7倍以上の歯学部もあるという。

 実態以上に歯学部人気が急低下したことには、歯科医師数の抑制を求め続けてきた日本歯科医師会も戸惑い気味だ。志願者数の落ち込みは将来、歯科医師の質の低下につながる恐れがあるからだ。同会の柳川忠広常務理事は「数が過剰なのは確かだが、今日明日に食べられないことはない。一部に赤字の歯科医院もあるが、どんな業界も同じ」と話す。

 一方、「過剰」と言うことに疑問を持つ開業歯科医もいる。東京・杉並区歯科医師会の高橋英登会長は「需要開拓の努力もせず、『減らせ』と言うのは甘え」と同業者にも手厳しい。

 高橋会長の医院は、週4日は午後11時まで、年末年始も元日以外は診療する。夜間の患者は日中忙しくて受診できない会社員が多く、年末年始は近県からも来院する。高齢患者には訪問歯科診療も行っている。

 高橋会長は、同歯科医師会の取り組みとして「歯科診療を充実させることで、医療費を減らせることを実証したい」と言う。近年、咀嚼(そしゃく)したり、のみこんだりする口腔(こうくう)機能と全身の健康との深い関連が分かってきたからだ。