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歯磨きの頻度が少ないほど心血管リスクが上昇

1日の歯磨きの回数が1回未満の人は、2回の人に比べて心血管イベントリスクが1.7倍―。そんな研究結果を、英University College LondonのCesar de Oliveira氏らがBMJ誌電子版に2010年5月27日に報告した。

 歯周病と心血管疾患の関係に対する興味は高まっている。歯周病は口腔衛生状態が悪い患者に発生する慢性の炎症だ。これまでに行われた疫学的な研究は、歯周病と診断された患者の心血管リスクを評価していたが、いずれも小規模だった。

 そこで著者らは、研究の規模を大きくするために、自己申告による歯磨きの回数を歯周病の代替として、心血管疾患との関係を調べることにした。同時に全身性の炎症マーカーであるCRP値、血液凝固能(フィブリノーゲン値)と心血管イベントの関係も調べた。

 分析対象に選んだのは、Scottish Health Surveyに登録されているデータ。ここには、スコットランドの一般住民を代表する人々から、3年から5年おきに収集した人口統計学的データと生活習慣に関する情報(喫煙歴、身体活動量、口腔衛生状態など)が登録されている。今回は35歳以上の男女で、総入れ歯ではなく、心血管疾患の既往がない1万1869人(平均年齢50歳)を選び、1995年、98年、03年のデータを入手した。

 口腔衛生状態に関する調査は、1日の歯磨き回数が2回、1回、1回未満から選択するようになっていた。

 心血管イベントの有無は、入院と死亡に関するデータベースに07年12月までに登録された情報に基づいて判断した。

 主要エンドポイントは、非致死的心血管イベントと心血管死亡を合わせた複合イベントに設定。Cox比例ハザードモデルを用いて複合イベントのリスクを推定した。調整は、年齢、性別、社会経済学的状態、喫煙歴、身体活動量、歯科受診頻度、BMI、心血管疾患の家族歴、高血圧歴、糖尿病歴について行った。

 全体に口腔の衛生状態は良好だった。62%の患者が少なくとも6カ月おきに歯科を受診しており、71%が1日に2回歯磨きをしていた。

 追跡期間の平均は8.1年で、その間に555件の心血管イベントが発生。うち心血管死亡は170件だった。心血管イベントの74%(411人)は冠疾患だった。イベントを経験した人々のベースラインの平均年齢は57.0歳、イベント無し群の平均年齢は49.6歳だった(P<0.001)。

 口腔衛生状態不良群(歯磨きが1日1回未満、538人)では、口腔衛生状態良好群(歯磨きが1日2回、8481人)に比べ、心血管イベントリスクが有意に高かった。イベント発生はそれぞれ59件と308件で、調整ハザード比は1.7(95%信頼区間1.3-2.3、P<0.001)となった。歯磨きが1日1回のグループ(2850人、イベント発生は188件)にもリスク上昇が見られた。調整ハザード比は1.3(1.0-1.5)。

 心血管死亡のみについて、口腔衛生状態不良群の調整ハザード比を求めたところ、リスク上昇傾向が見られたが、差は有意ではなかった(1.5、0.9-2.6)。

 なお、血液標本が採取できた4830人について、口腔衛生状態と全身性の炎症マーカーの関係を調べた。口腔衛生状態不良群のCRP値の平均は4.18mg/Lで、口腔衛生状態良好群の3.07mg/Lとの差は有意だった(一般線型モデルを用いた回帰分析の回帰定数βは0.04、0.01-0.08)。フィブリノーゲン値についても同様で、衛生状態不良群は2.98g/L、良好群は2.86g/Lだった(βは0.08、-0.01から0.18)。これらは、年齢、性別、社会経済学的状態、喫煙歴、歯科受診頻度、BMI、心血管疾患の家族歴、高血圧歴、糖尿病歴と、急性感染症(インフルエンザ、肺炎など)で調整した推定値だ。

 さまざまな交絡因子候補で調整しても、口腔衛生状態不良群の心血管リスク上昇は有意だった。衛生不良群には軽度炎症も認められた。

 著者らは、口腔の衛生状態が心血管リスク上昇を直接引き起こすのか、それともリスク上昇のマーカーなのかを今後明らかにする必要がある、と述べている。

 原題は「Toothbrushing, inflammation, and risk ofcardiovascular disease: results from Scottish Health Survey」2010. 6. 15
BMJ誌