記事一覧

腱鞘炎:パソコン操作で悪化させないために

ファイル 44-1.gif

「腱鞘炎」はもともと、楽器を演奏する人、文字を書いたり帳簿付けをする人、テニスなどのスポーツをする人、家事をする人など、普段指や手をよく使う人にみられる症状でした。
ところが最近、職業や年齢などにかかわらず、一般の人にも急増しています。その最大の原因が、パソコンです。
パソコンの作業では、マウスに手を置いてクリックをする、キーボードで文字などを打つ、といった動作を繰り返します。仕事だけでなく、ショッピングやゲームなどに夢中になり、毎日のように何時間もパソコンに向かう人が多くなっています。
その結果、指や手首の関節付近がこわばり、指を伸ばしにくくなったり、ものをつかもうとしたときに痛みが走ったりし、初めて腱鞘炎に気付く人が少なくありません(※1)。
では、こわばりや痛みは、なぜ起こるのでしょうか。

私たちの指や手には、腱(けん)というヒモのようなものがあり、筋肉と連動して動かすことで、指や手首を自由に曲げたり伸ばしたりしています(※2)。腱が動くときに、骨から離れないように押さえる役割をしているのが、腱鞘(けんしょう)というサヤです。
指や手首をひんぱんに曲げ伸ばししていると、腱と腱鞘がこすれ合い、炎症を起こすことがあります。するとその部分が腫れて動きが悪くなり、やがて痛みを発するようになるのです。
とくに中高年になると、腱も腱鞘も硬くなり、血行も悪くなりがちです。そのためパソコン作業をやりすぎると、炎症を起こしやすく、また回復も遅くなります。
腱鞘炎を悪化させると、ちょっと手を動かすたびに激痛が起こり、日常生活に大きな支障となります。症状の改善法や予防法をきちんと知っておきましょう。
(※1)パソコン作業が原因で起こる腱鞘炎を、「マウスクリック腱鞘炎」とか「パソコン腱鞘炎」と呼ぶこともあります。

(※2)腱とよく似た組織に、じん帯があります。その違いを簡単にいうと、腱は筋肉と骨をつなぐ部分にある組織、じん帯は骨と骨をつなぐ組織ということができます。腱もじん帯もあまり伸縮性がないため、使いすぎたり、無理な力がかかると、炎症や断裂を起こすことがあります。

マウスのクリックなどで指(主に人さし指)を使いすぎたときに起こる腱鞘炎を、「ばね指」ともいいます。指を伸ばそうとすると、カクンとばねのようにはじかれる感じがするからです。
ばね指になると、当初は関節部分にこわばった感じがし、やがて曲げ伸ばしのたびに痛みが起こるようになります。
手のひら側の指の付け根に小さな膨らみがありますが、この部分を軽く押しながら、指の曲げ伸ばしをしてみてください。指の動きが硬くてぎこちなかったり、少し痛みを感じたりした場合には、ばね指になりかかっている可能性があります。
そのまま使い続けていると、指を曲げたときに激痛が走り、曲げ伸ばしが自由にできなくなることもあります。
軽症のうちなら、痛む部分にテーピングをし、固定することで症状をやわらげることができます。薬局や運動具店などでかぶれにくいテープを選び、自分で加減しながら3周くらい巻いて固定します。強く巻きすぎると血行が悪くなるので、注意してください。
痛みがとれない場合は、早めに受診することが大切です。貼り薬や塗り薬のほかに、注射で痛みをとる方法もあります。人によってその効果に差はありますが、一度の注射で半年くらい効果が続く人も少なくありません。
ただし、痛みがとれても無理をすると再発しやすいので、十分に注意する必要があります。
また指の腱鞘炎とよく似た症状に、「変形性指関節症」があります。軟骨がすり減って起こる症状で、痛みのほかに腫れを伴い、放置していると指が変形します。腱鞘炎と区別するためにも、早めに受診しましょう。

手首に起こる腱鞘炎を、「ドケルバン病」といいます。
手の甲を見ながら親指をひらいていくと、手首の近くに太い筋が2本浮き出ます。それが手首の腱です。
テニスや野球などのスポーツでは、手首を使う動作が多く、また手首に強い力が加わるため、腱鞘炎を起こしやすくなります。
パソコン作業では手首はあまり動かしませんが、キーボードやマウスに手をのせるとき、常に手首を少し反らせた状態になります。そうした状態を毎日何時間も続けていると、手首の腱には大きな負担となり、腱鞘炎を起こすのです。手首だけでなく、ひじ痛を起こすことも少なくありません。
ドケルバン病かどうかを知るには、親指を内側に入れて軽くゲンコツをつくります。そしてゲンコツを左右にゆっくり回転させてみて、手首のあたりに違和感や痛みがあれば注意が必要です。
手首の腱鞘炎の場合も、軽症のうちならテーピングが効果的です。親指をひらいたときに浮き上がる筋のすぐ下、手の甲と手首の境あたりにテープを軽く巻き(1~2周)、固定します。
痛みが続く場合は早めに受診することが大切ですが、とくに指などにしびれを伴うときには、「手根管症候群」などの疑いもあるので、検査をして適切な治療を受ける必要があります(※3)。
(※3)手根管は、骨やじん帯、腱、正中神経などで構成された管状の組織で、手のひら側にあります。指や手の使いすぎで正中神経に障害が起こると、親指から薬指にかけてしびれが起こります。

指や手首の腱鞘炎は、使いすぎによって起こります。一度起こると治るのに時間がかかるので、指や手首にこわばりや違和感をおぼえたら、早めに予防することが大切です。
パソコンの作業は3時間、4時間と続けてしまうことが少なくありません。予防のためには、1時間に一度は休憩し、指や手を休ませる必要があります。
そのとき両手を高く上にあげ、ゆっくり揺すると血行が良くなります。次に、手をだらりと下げ、やはり軽く揺すり、手の力を抜くようにします。この方法は、肩こりや肩痛、四十肩などの予防にもなるので、忘れずに続けましょう。
また、画面の文字を読んでいるときや、文字などを打つ途中で考えたり、読み直したりするときには、マウスやキーボードからいったん手を放す習慣をつけると、こまめに休ませることができます。
キーを強くたたく人を時々見かけますが、必要以上に指や手首に負担をかけることになります。強くたたく意味はまったくないので、いつも軽いタッチで打つように心がけましょう。
指や手首にこわばりや違和感をおぼえたら、早めに冷シップをしましょう。野球のピッチャーが投げ終わったあとすぐにアイシングをしていますが、それと同じで、冷やすことで腱の部分の炎症を抑えることができます。
すでに痛みが続いている場合には、反対にお湯で温めると血行が良くなり、楽になることもあります。
いずれの場合も、放置しないできちんとケアをし、悪化させないことが大切です・