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タイガーマスク運動 香山リカのココロの万華鏡

全国に現れた「タイガーマスク」たち。

 もちろん、アニメやプロレスの話ではなく、児童養護施設などにプレゼントをそっと届ける匿名の贈り手たちのことだ。その数、千件以上、それらをまとめて「タイガーマスク運動」と呼ぶマスコミもある。プレゼントの中身も、当初のランドセルや文房具から、野菜や果物、現金、中にはボクシンググローブなどやや意図不明のものまでがある。内容によってはもらった方もやや困惑ぎみのようだが、たしかにちょっと一方的な感じがしないでもない。
ただ、物語のヒーローのようにプレゼントを置いて、名前も告げずにさっと立ち去っててみたい、という気持ちもよくわかる。贈り手たちはその後、子どもたちが突然のプレゼントに大喜びしている場面を想像して、ひとりそっとほほ笑んでいるのだろうか。
私なら、「わあ、ランドセル!うれしいわ」「きっとやさしいお兄さんがくれたんだね。よーし、ボクもがんばって勉強するぞ」といったセリフまで作って、頭の中でつぶやいてしまいそうだ。人は誰でも、一度くらいは直接、人を助けてみたい、と思っている。
でも、実際にはなかなか人命救助の機会などないし、莫大(ばくだい)な寄付をする財産もない。ボランティア活動に率先して参加、という積極性もいまひとつ持てない。そういう人たちにとっては、匿名でカッコよく人助けできる「タイガーマスク運動」は、うってつけの機会だったのではないだろうか。
「善意か偽善か」とこの一方的なプレゼント活動を疑問視する声、「どうせ一過性だろう」という声もある。私も当初は、「相手のニーズにちゃんとこたえた贈りもののほうがいいのでは」と思っていたが、最近は「タイガーマスクになりたい人には、ならせてあげて」と思うようになってきた。カッコいいことをしてみたい。想像上のヒーローを名乗ってみたい。ずっとそう思っていて、今こそそれが実現できた人たちは、きっとこの後も何かいいことをしてくれるはずだと信じたい。
さて、私はどんなヒーローになってみたいか、と考えてみた。一見、クールだけれど腕は抜群の漫画の主人公「ブラックジャック」が好きなので、全国を旅しながら「診てあげようか」と押しかける「ブラックジャック運動」でもしようか、と考えたけれど、それこそ相手にとっては迷惑かもしれない。

 やはり善意を実行するのって、けっこうむずかしい。